はじめに | 小説を書く前に
何を伝える物語なのか
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あなたはその小説で、読者に何を伝えたいですか?
小説を書く前に、舞台、キャラクター、設定、誰がどこで何をするか(5W1H)を考える人も多いでしょう。しかし、これだけでは小説とは言えません。なぜなら、それらはあくまでも作者が読者に伝えたいことを伝えるためのツールにすぎないからです。ユニークなキャラクターや設定を思いつくと、それだけで満足してしまうことがあります。
しかし、小説は作者の心の中、世の中の理不尽さへの怒り、願望、そういったものをどう読者に読ませるか。言うならば、小説はあなた自身の映し鏡ですから、あなた自身をさらけ出すことから、全ては始まるのです。
その作家にとって代表作になるものか、または社会にとって問題作となるものか。
編集者は、いずれかを作ることを常に意識しています。
例えば多作な作家であれば、その作家に今までなかった全く新しいテーマを提案するのです。生涯に一冊の本を出そうとする方にとって、その作品は代表作にならなくてはなりません。どのような思いで出版を考えているか、編集者が著者の内なる思いを理解することから編集作業はスタートします。
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テーマ|小説の核を決めよう
テーマは普遍的なものを
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小説のストーリーは各々でもテーマは普遍的なものでなくてはなりません。
親と子の愛情、男女の恋、戦争、恨み……。奇をてらう必要などないのです。オリジナリティは、普遍的なテーマの先に生まれるもの。これは「小説を一言で表現」した時に明確になります。例えば、男女の恋をテーマにした小説でも、「ある男の喪失と再生をテーマにした物語」ならば、失った女性を取り戻すための男の人生を描く小説となります。
お好きな小説を自分なりの一言で表現してみましょう。自分の書いた小説を人へ説明する時に、「誰が何をして~」と設定から話をしても聞いてもらえません。この小説は何をテーマに書いた物語なのか。それは設定でもキャラクターの説明でもなく、小説の核になるものです。
書き始める前に、まずこの核を掴むと執筆がしやすくなるでしょう。
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小説の基本。それはキャラクター、ストーリー、文章を、いずれも分かりやすく作ることです。ここでの分かりやすいとは、読者が納得できる小説を意味します。
編集者は、ストーリーに、なにかしらの欠落があれば、それを著者に伝え、話し合い、作品のレベルを上げていくのです。
書き手も他者が読んで分かりやすい作品になっているか、厳しい目で見ることを意識しましょう。
プロット|小説を書き上げる設計図
プロットを考えるメリット
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小説を書く時には、物語を組み立てるための設計図が必要です。
これをプロットといいます。
初心者のなかには、小説を書きあげられずに、道半ばで挫折してしまった経験を持つ方も多いのではないでしょうか。その失敗の原因は、プロット作成が不十分だったからかもしれません。もし、物語のアイディアが思い浮かび、直ぐに小説を書き始めてしまっているのだとしたら、まずはプロットを作ることからはじめましょう。プロットを考えるメリットとして次のような効果が期待できます。
- ・ストーリーの脱線やテーマのブレを防ぐことができる
- ・構成に偏りがないかチェックしやすい
- ・執筆が順調に進む
- ・第三者に確認してもらう材料になる
物語を書き始める前にプロットを作ることで、最初に設定したテーマから脱線することなく、過不足のない構成で小説を書き上げることができるでしょう。また、第三者に小説の内容へのアドバイスをもらう時にもプロットは有効です。
小説を執筆するなかで、筆が止まってしまう経験は誰しもあることですが、そんな時にもプロットを作っておけば、行く先を照らす道標となってくれますよ。 プロット設計での必須項目
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実際にプロットを設計する時に必要なことを確認していきましょう。プロット設計で考えるべきことは「小説の設定」と「ストーリーの構成」です。
まず、小説の設定を考えるためには、具体的に下の要素を練っていきましょう。
- ・テーマ
- ・登場人物
- ・舞台や時期
- ・あらすじ
この時、設定を考える手が止まったら、頭に浮かんだアイディアを5W1Hに当てはめてみるのがおすすめです。
- (1)Who(誰が?)
- (2)When(いつ?)
- (3)Where(どこで?)
- (4)What(なにを?)
- (5)Why(なぜ?)
- (6)How(どのように?)
この作業で考えを整理すれば、小説の時代設定や目的、キャラクターの動きやストーリーの方向性など、今までぼんやりとしていた輪郭がはっきりするはずです。
小説の設定が決まったら、あらすじをもとに物語全体の構成を考えます。物語で伝えたいテーマをどこでどう扱うか、各章のエピソードや分量に偏りはないかに注意しながらストーリーを組み立てましょう。
参考:ストーリーの型
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小説のストーリーの型で代表的なのが「起承転結」と「序破急」です。
- 【起承転結】
- 起:物語の導入部分。背景や世界観を伝えて読者を小説に引き込みましょう。
- 承:起の設定を深掘りし、物語が展開していきます。
- 転:起・承で続いていた内容が思わぬ方向に転がる部分。話の盛り上がりに繋がります。
- 結:小説の結末、決着の役割。物語をまとめて着地させましょう。
- 【序破急】
- 序:起承転結の起にあたる役割。読者を小説へ案内する、話の導入部分です。
- 破:起承転結では承転の部分。話を展開しながら急な変化が訪れます。
- 急:話の結末。破から一気にクライマックスへ進みます。
序破急は起承転結に比べて、テンポが速く、目まぐるしい展開に読者を引き込むことができます。
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キャラクター|書き方次第で心の距離が近づく
魅力的なキャラクターとは
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登場人物のキャラクターが、小説の魅力を左右すると言っても過言ではないでしょう。
では、あなたは小説に出てくる、どんなキャラクターに魅力を感じますか?魅力的なキャラクターを作る要素は、読者が思わず感情移入してしまうような設定のリアリティにあります。強い・優しい・明るい・天才……。このようなポジティブな面だけを描くことが登場人物の魅力に繋がるわけではありません。強さを手に入れるまでの道のりや想い、相反する弱点など、小説には登場しないようなキャラクターのバックグラウンドさえも作り込むことが魅力的な人物を生み出すのです。
キャラクター設定に必要なこと
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魅力的なキャラクターを描くには、リアリティが大切だと説明しました。それでは、リアリティを出すために登場人物の設定では、具体的にどのような作業が必要でしょうか?
リアルな登場人物を描くために、まずはキャラクターの履歴書を作ることをおすすめします。性別、年齢、長所、短所、好きなもの、嫌いなもの、信念、特徴……、挙げればきりがありませんが、できるだけ一人の人間としてイメージしてみましょう。
- 【登場人物、設定の例】
- ・立ち位置(主人公かヒールかなど)
- ・キャラクターの名前
- ・性格の特徴
- ・仕草や雰囲気
- ・セリフの口調
これらの詳細な人物設定は、身近な人をヒントにしたり、芸能人を組み合わせてイメージを作り上げたりするなど、慣れるまでは実在の人物で履歴書作成することをおすすめします。
キャラクターのセリフに注意する
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小説の場合、キャラクターが著者を代弁してしまうケースがあります。
これは、著者が言いたいことをキャラクターに代弁させているわけですが、すぐに読者に見抜かれてしまいます。なぜなら、セリフが不自然だからです。本文中のセリフは、小説において、とても重要な要素です。
しかし、ストーリーが進むほど、無意識のうちに、キャラクターに自分の想いが乗り過ぎてしまうことも。そのため、時々「本当にキャラクター自身の言葉になっているか」と、振り返ることが大切です。
例えば、法律に詳しくないであろうキャラクターが、いきなり法律用語を使えば違和感が出ます。
このキャラクターがそんなことを言うだろうか、そんな行動を取るだろうか、感情移入しすぎず、一つひとつ検証しなければなりません。
恋をしたきっかけ、事件の動機、そのキャラクターらしいセリフ、行動を取らなければ、小説のリアリティは生まれないのです。
人称|小説の視点を意識する
人称の基本
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小説を書き始める時「視点をどのようにするか」で初心者の多くが頭を悩ませます。どの視点にもメリット・デメリットがあり、著者の描きたい小説の内容によって使い分けが必要です。一人称、三人称の区別も重要ですが、単独視点と複数視点のどちらが良いのかも考える必要があります。基本ルールとして、一冊の小説の中では決めた人称で最初から最後まで書ききることになるので、始めに文体の方向性を定めることが重要です。
一人称
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一人称は「僕は」「私は」で語るスタイル。
一人称の目線は主人公であることが一般的です。主人公の見たこと、感じたことを一人称で語っていくので、著者との一体感やストーリーへの臨場感が宿ります。一方で、主人公の知らない部分は描けないことや、一方向からの思いを書きすぎてしまう点が一人称のデメリットです。
夏目漱石の『吾輩は猫である』はまさに一人称の作品です。「吾輩」という猫の視点で物語が語られています。 三人称一元視点
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三人称一元視点とは、単独視点(主人公の視点)でありながら語り口は三人称(例:太郎は)で進める方法です。一人称のように、主人公の思いや心の移り変わりを描くことができるうえに、一方向から描写しすぎることも防げます。
三人称
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三人称の最も大きな特徴は、主人公以外のキャラクターにも視点が変えられることです。メリットは、主人公が知らない他者の気持ちや状況も表現することができる点にあります。ただし、視点を変えすぎると読者を混乱させることや、臨場感に欠ける小説になってしまうので注意が必要です。
神視点
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神視点では小説を上から眺めるように、まさに神の視点で進める手法です。三人称と比べ視点があちこちと移り変わります。色々な方向からの情報を描ける反面、主人公の気持ちや心の変化に重点を置くことが難しくなる点がデメリットです。
原稿のコツ|書き上げた小説を磨く
地の文章を練る
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地の文とは小説内で、セリフや会話文以外の状況を説明している部分のことです。
初心者のうちは会話文と比べて、この地の文章を書くのが難しいと感じる人が多いでしょう。しかし、地の文章は、心情、風景、登場人物の状態、説明など多岐にわたる役割があります。また、会話文にはない「物語を進める力」を持っています。セリフを補完することが役割ではなく、読者を物語に引き込むには、練られた(情報がスムーズに入る)地の文章が必要なのです。
また、セリフとのバランスにも注意しましょう。日常生活でも、人の話をずっと聞いていることはできません。人の話を長時間聞いていると、結果的に何を言いたかったのか整理してほしくなることがあると思います。
これは小説でも同様で、長短に関わらず、連続したセリフは読んでいて分かりにくくなる傾向があるからです。何ページにもわたってセリフが続くと、読者は小説世界の情報を理解しないまま物語が進んでしまう怖れもあります。 推敲を重ねる
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書き終えた文章を推敲によって磨きあげましょう。推敲する時のコツは、少し時間をおいて、再度繰り返し読むことです。時間をあけることで、冷静に・客観的に文章を見つめ直すことができます。推敲のポイントとして、誰が読んでもわかりやすい内容になっているか、冗長になりすぎていないか、内容にかたよりがないかなどの観点から原稿をチェックしていくことが大切です。
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これは編集者が帯文を作るとき、必ず気を付けていることです。
例えば感涙の小説という言葉があります。
感涙という言葉を作った人は素晴らしい。
しかし、「感涙」は何度も何度も繰り返し使われてきた言葉です。
同様に「珠玉の短編集」など慣用句を安易に使わないことです。帯文のコツ
・帯文はわかりやすいこと
・想像をかきたてること
・イメージを限定させないこと
・その作品だけのオリジナリティを出すこと執筆、文章の編集・校正、カバーデザイン、帯文の作成、あなたの代表作が完成する時まで、ぜひ編集者と共に表現を追求して頂ければと思います。
ツール|小説を書く時に便利
執筆ツール
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- ・Microsoft Word
- ・一太郎
- ・ArtOfWords
- ・Googleドキュメント
- ・Evernote
- ・Notion
- ・idraft
様々な執筆ツールがあるので、メリット・デメリットを考えながら利用しましょう。Wordや一太郎は利用にあたってソフト購入費用がかかりますが、ネット環境を考えず作業することに向いています。
一方、ブラウザ上で利用できるものだと、スマホを使って外出先からも執筆可能というメリットが大きいでしょう。 アイディアツール
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- ・Wordcascade
- ・即席アイデアメーカー
- ・ランダム単語ガチャ
執筆で発想に困ったら利用したいのがアイディアツールです。小説のタイトルや構成の参考に頭の中から言葉を引き出すことのできる便利アイテムを活用しましょう。
コツと注意点|初心者が小説を書き上げるためには
小説を書きあげるコツ
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- ・アイディアメモの習慣
- ・書き始める前の準備(プロット)が重要
初心者にとって、小説を書きあげることは簡単なことではありません。途中で挫折しないためのコツとして、日常からアイディアをメモする習慣をつけましょう。物語のネタは日常生活のふとした瞬間に思いつくものです。メモを習慣化することで、アンテナを高く張り巡らせ、今まで気づかなかった日常の些細なことに物語の種を見つけることができるでしょう。
また、前の章でも説明したように、小説を書きあげるうえで、プロット設定はとても重要です。特に初心者のうちは、プロットを作ることを面倒に感じるかもしれません。しかし、この前準備が小説の仕上がりを左右し、途中で挫折することも防いでくれるのです。
小説を書く時の注意点
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- ・基本的なルールを覚えよう
- ・いきなり物語を書き始めない
- ・スモールステップを積み重ねる
初めて小説を書く時には、基本的なルールにも注意しましょう。感嘆符、数字、かぎ括弧、三点リーダー(…)の使い方など、まずは執筆に関わる基本ルールを覚えることが大切です。
小説を書くなかで、時には挫折しそうになることもあるかもしれません。そんな場合に頼りになるのがプロットです。前にも説明したように、必ずこの道標となるプロットを作成してから小説を書き始めましょう。そして、筆が止まってしまった時はプロットを目標にして、スモールステップを意識します。一歩一歩焦らず着実に前へ進んでいけば、初心者でも必ず書き上げることができるはずです。初めての小説を書きあげれば、大きな自信に繋がるでしょう。