大賞作品電子書籍化
大賞
『応永の風』
平野周:著
【大賞作品 幻冬舎ルネッサンスより電子書籍化】
■あらすじ
時は1474年。齢80を数えた楠葉西忍は病に倒れ、危篤状態であった。駆け付けた孫の顔を見ても、若いころの記憶と混同するほど、意識が朦朧としていた。ふと眠るように目を閉じたとき、眼前に映っていたのはかつて旅をしていたときに歩んだ草原だった――。
西忍が25歳だった頃、奈良ではある風説が飛び交っていた。それは蒙古と高麗が攻めてきたというものであった。父から大陸のことをよく聞かされていた西忍はその噂を信じることが出来ず、自身の目で確かめようと奈良に向かったのだった。奈良で実弾房宗信という男と出会い、高麗が対馬を攻めてきたことが真実であるとわかったのだ。勝利はしたものの、今後蒙古が攻めてくる可能性があり、人々は不安に駆られていた。
西忍は旅を続けるうちに様々な人々と出会い、その中で神風伝説や神風一揆の策動を耳にするようになる。宗金から神風一揆の策動を阻止することを頼まれた西忍は合戦を食い止めようと試みるが、仲間からの裏切りにあってしまう。そこには隠された真実がいくつもあるのだった――。
大賞作品『応永の風』
編集者講評
時代小説特有の重厚感が心地よく、読後も読者の心に余韻を残すような印象深い作品でした。元寇や外交をモチーフにしていることで、歴史ロマンの中でもオリジナリティが発揮されています。教科書や専門書で取り上げられるほど、一般的には難解と思われる内容でありながら、時代小説として物語性を与えることで難解さを和らげ、ここまで物語の世界観を広げている点は実に見事です。
噂から始まり、少しずつ真実が解き明かされていく展開は、まるで推理小説のように、読者の想像力を刺激します。また、時代小説は説明口調になりやすく、語り口も独特であるために読者を選びがちですが、本作はジャンルに馴染みのない方でも読み進めやすい作品であり、新たな読者層を開拓できる可能性が感じられた点が、何よりの決め手です。