大賞作品電子書籍化
大賞
『無資格二十歳男子 介護で働く』
遠野遼平:著
【大賞作品 幻冬舎ルネッサンスより電子書籍化】
■あらすじ
「介護」は、ない。
思うように進まない就職活動に嫌気がさしたとはいえ、重労働・低賃金といわれる介護職は選びたくない。しかし、現代の若者の多くがそう感じているのであれば、簡単に就職できるのではないか。次の就職先までの繋ぎとして軽い気持ちで受けた面接から、伊藤の介護に対する考え方は大きく変化していく。
普段の生活では考えられないような、突如として聞こえてくる奇声。自分と同じか、それ以上に重い入居者たちの体を支え、動かす。その過酷さと壮絶さによって、伊藤は体力的にも精神的にも、疲労困憊してしまう。
そんな中で伊藤は、ショートステイで入居していた「野原さん」の死を経験する。混乱で何もわからないままに行動する不安さ。そして「野原さん」を救えなかった自分の不甲斐なさ。
「やりがいとは何か」。
壮絶な経験の先に、伊藤は介護という職業の何を見たのか。
現代の問題点である介護職の人不足。現状を決して美化することなく赤裸々に描いた仕事小説。
大賞作品『無資格二十歳男子 介護で働く』
編集者講評
人生の最後を過ごす場所。そこで繰り広げられるドラマを余すところなく綴った、非常に出来の良い、実体験をもとにした小説です。短くも長い介護という特別な時間の中で様々な人と関わり、些細なことから生と死を実感する様子を描いています。介護とは何たるか、その神髄に触れることができる作品でした。
最後の一文が後を引く、美しい文章構成は見事です。介護職について語る作品は、壮絶な実態を描いたものが多くあります。過酷な現場で働きながらも、その中に楽しみを見出す登場人物の姿は、実際に働いている人々を励ますことでしょう。
また文体、構成をとっても素晴らしい完成度です。ラストシーンの大胆な余白は、ゆったりとした時間の流れや、主人公の心情を巧みに描き出しています。就職先に困って、なんとなく足を踏み入れた介護の世界。そこは人の生き様を最も近くで見ることができる場所。読者にとって「介護」という職に対する認識を一変させる、気づきと学びを与える作品になるに違いありません。
生と死の最前線から発される言葉たちに笑って泣いて、幸せな気分になれる傑作です。