幻冬舎グループ主催小説コンテスト 短編小説コンテスト 大賞作品結果発表

2020年5月に実施された短編小説コンテストにて大賞作品が決定いたしました。
大賞に選ばれた今作品は、幻冬舎グループより電子書籍化がされます。

大賞作品

海の賜物

田中雄一:著

あらすじ

2011年3月11日、未曽有の大震災が東北を襲った。生活のすべてを奪った災害は、多くの人々に消えることのない爪痕を残した。水産加工会社で働く慎二と社長の悟も、震災によって大きな決断を迫られることになる。

外資系コンサルで激務にあえいでいた慎二は、離婚をきっかけに職を辞し、何をするともなく日々を過ごしていた。旧友の悟と出会い、彼の変わらぬ姿に懐かしさと憧れを抱き、彼の会社で働くことを決意する。しかし、悟の旧態依然とした経営が腑に落ちず、「東京から来たよそ者」と社員からも反発される日々。そんななか、突然東北を襲った震災によって、会社の存続は危ぶまれる。多くの会社と同様に、従業員を解雇すべきか、それとも。慎二が出した結論とは、いったい――。

編集長講評

今回の「人」というテーマ、さまざまな解釈の作品があり、選考も非常に楽しませてもらいました。『海の賜物』は、震災における地元企業の混乱を描いた物語ですが、見方によっては慎二の成長物語とも読めます。前職で「首切り屋」とも称され、無慈悲にリストラを実行してきた男が、震災を機に人の温かさを知り、全員雇用継続を決断する。心境の変化の背後にあったのは、慎二が真っ先にリストラをしようとしたパートのおばさんたちのある行動でした。「人と人が関わり合い、成長していく」ということを限られた文字数の中で非常に丁寧に追っていたところに、本作の特筆すべきものがありました。

震災は私たちの生活を大きく変えました。慎二も悟も、失ったものの数を数えだしたらきりがありません。しかし、たとえ目に見えなくても、ほんのささいなものでも、たしかに得たものもあります。きっと慎二は会社の人々と協力して、復興の先まで駆け抜けていくでしょう。たしかな未来を予感させてくれる、読後感の良い物語でした。

PAGE TOP ▲