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嵯峨野 嘉竹 詩集 〜 詩集(その5)

嵯峨野 嘉竹

著者:嵯峨野 嘉竹
詩集3冊、私小説「私は猫なのね」などの自著がある。

嵯峨野 嘉竹 詩集 〜 詩集(その5)

親として

 
お宅のお子さん
ケシの花になっていませんか
社会や教師がそうしたと 思っていませんか
あなた その考え方
どこか間違っているとは思いませんか
あなたが大切に思う そのお子さんは
誰の小さな人 なんでしょうね
あなたの 分身ですよね
この子が そんなに荒んでしまったのは
あなたの責任でしょ
ご自分の大切なお子さんの人生の進歩を
他人に任せきって良いと思っているのですか
それは
権利と義務を同時に放棄するのと同じこと
自分を見殺しにするのと同じです
それ以上の反逆として
あなたは社会に対して
麻薬以上の不穏物質を送り出そうとしているのですよ
そこに
人としての誇りは存在しますか
その子の人生に対して
申し訳ができますか
 
 

愚痴

 
俺の人生って
いつも追い回されているのさ
時間に追われ 催促に追い立てられ
結局 みんな俺と同じ様に
追い立てられて一日を過ごすのさ
哀しいといえば それは何ということか
嬉しいといえば それが何なの
太平楽の俺が言うのも可笑しいが
もっと真面目に生きろよ
……ってことかな
 
 

愚痴(ニ)

 
幼げな 頼りない風が
私の前を通り過ぎてゆく
別に 何を求める訳ではなく
あるがままの姿でゆく
何が欲しい訳でなく
何を嫌う訳でもない
ただ 自然に流れていたい
 
 

愚痴(三)

 
迷路壁
求める本は箱庭宇宙
銀沙向月
時空の旅人
 
 

堂々と

 
泣くのは恥ではない
泣き言を言うのは女々しいんじゃない
何もできないのが恥ではなく
何もしないのが 恥なのだ
それは
今の自分が 良く理解できる事だろう
 
人に文句を言われたって何だ
人に 自分の生き方をけなされたって何だ
自分に信念があっての生き方 考動なのだから
誰にも後ろ指を指されるいわれはないんだ
そんなお粗末な奴等に涙なんか見せるか
正々堂々と 真摯に私は生きているんだ
 
 

タイムトラベル

 
そこに 時間を越えた屈託なく笑う幼い日の自分がいる
はしゃぐ姿の自分がいる
次の瞬間には頬を涙に濡らす姿がある
どうして そんなに泣くのと…届かぬ声で尋ねる
すると…若き日の母が心配そうに駆け寄ってきた
どうやら 靴を隠されて帰れずに泣いているようだ
次には 職員室で語り合う母と自分と懐かしい先生の姿が見える
何故か 自分以外は笑顔で語り合っている
その言葉に 子供の自分は頷いている
教室が朧気に映し出されている
子供が一人 先生の前に立っている
周りの子供は 険しい視線でその光景を見つめている
パッと明るくなった瞬間
少し大きくなった自分が 走っている
良く見ると 校庭の奥を子供がボールを追掛けている
初めてホームランを打った日のようだ
照れながら仲間に祝福を受けている自分が見える
突然 雨が降っている場面に変わった
男の先生に 何やら叱られているようだ
授業中に外を眺めているのを咎められたようだ
そうか あれは…嫌いだった理科の先生か
あれ みんなどうして泣いているの
えっ 女学生にボタンを取られている
そうか 卒業式だったのか
あっ 田舎に来てしまった
あれは 親父だ青年の親父だ随分と若い母もいる
親父に 高い高いをされているのは赤ん坊の自分だ
自分で言うのもおかしいようだが うん…可愛い
そして変わらない優しい子供の自分がいる
 
 

本末転倒

 
未熟だねぇ
自分の子供が 信じられないのかえ
自分の分身が成そうとしている努力の貴さを
見極められないのかい
情けないねぇ
本当は
自分自身を信じられないんじゃあないのかい
 

詩集 【全12回】 公開日
(その1)嵯峨野 嘉竹 詩集 2019年7月17日
(その2)嵯峨野 嘉竹 詩集 2019年8月26日
(その3)嵯峨野 嘉竹 詩集 2019年9月6日
(その4)嵯峨野 嘉竹 詩集 2019年10月4日
(その5)嵯峨野 嘉竹 詩集 2019年11月1日
(その6)嵯峨野 嘉竹 詩集 2019年12月6日
(その7)嵯峨野 嘉竹 詩集 2020年1月10日
(その8)嵯峨野 嘉竹 詩集 2020年2月7日
(その9)嵯峨野 嘉竹 詩集 2020年3月6日
(その10)嵯峨野 嘉竹 詩集 2020年5月1日
(その11)嵯峨野 嘉竹 詩集 2020年5月29日
(その12)嵯峨野 嘉竹 詩集 2020年6月30日