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第四話「だんだん落ちていく」 〜 泥沼の底から光の射す大空へ(その4)

さくら

三重県出身、1976年生まれ。
子供の頃から本が好きで、小説、漫画、アニメなどあらゆるジャンルの作品を見ます。

第四話「だんだん落ちていく」 〜 泥沼の底から光の射す大空へ(その4)

高校生になりました。かわいい制服を着て、がんばらないという気持ちが出ては来たものの勉強が全く付いて行けずにいつも補習ばかりでした。

バイトの許可がもらえなかったし、入りたいと思ったクラブはお金がかかりました。私はこっそりバイトもして、自分のおこづかいは自分で稼ぎました。みつからないように調理場で働きました。私は皆の楽しみである修学旅行に行きました。バスの席を決めたりしました。

誰がどこに座るのかでとにかくもめましたが交代して座ろうという事で何とかまとまりました。修学旅行が始まると、私も楽しい気分になりました。船に乗って具合いが悪くなる子がいたので本当はお風呂に入ってみたかったけど、一人入れないのはとてもかわいそうだからと何人かはお風呂をがまんしましたので私もお風呂をがまんしました。

でも船の中からイルカを見たりして楽しく過ごしました。旅行先でのバス行動が始まると、とても残念な事がありました。一人の子が座席を交代するのを嫌がってきたのです。

本当に小学生の様なわがままで、その子は座席を交代しようとはしませんでした。私は本当に頭にきて自由行動を一緒にする予定だったのですが「私もうこの子と自由行動なんてできないから」と言って別の子達のグループに入れてもらい完全無視しました。

わがままな子なの。皆で決めた事なのに本当に腹が立つ。でも別の子達と楽しく過ごせて良かった。私はかぜを引いてしまって具合いが悪く熱も出てきて早く寝たかったです。

しかし、他の子達はおかまいなしで大さわぎ。私もせっかくの旅行なのによけいな事も言いたくなく、ふとんに入っていました。

朝になって目を覚ますと生理になっていてシーツにも血が。私はシーツを洗面台で洗いながら思いました。

「本当に最悪ふんだりけったりとはこういう事やな」と裏切り者はいるは、かぜは引くは、おまけに生理。

なんてついていないのか、自分の運の悪さを恨んでいました。そんな私にさらなる出来事が待っていました。

それは帰りの飛行機での事です。さくらは窓から2番目のなかなかのいい席でした。すると嫌な子がやってきて席を代わってと言ってきました。

その子の仲良しが窓の席に座っていたのです。私はここで嫌だというのも感じが悪いと思い、席を代わってあげました。

そして私が嫌な子の席に座ると水がこぼれていてビショビショでした。わざとやったのかどうかは分かりませんが、私は体調も悪く、熱もあるのかぼーとして、怒る気力もありませんでした。

毎日をただただ生きて一日が早く終わればいいと思い過ごしていたこの頃の私には、CAさんに言って別の席があいているか聞く事はありません。元の席に代わってと言う事もありませんでした。おまけに耳も痛くなってきました

体調の良くないまま毎年恒例の保育実習がありました。私の順番がすぐに回ってきたのですが、子供達と遊んだりする事ができずに、何もできないうちに一日が過ぎ去ってしまいました。

私にとって大事な高校生活の良き思い出となるはずの修学旅行も保育実習も最悪な思い出となってしまいました。

またつまらない毎日が始まりました。毎日バイトしていたかったけど、学校があるから土日だけ。

バイトしている時はとても楽しかった。そんな時、私にとって大切なおばあちゃんが、子宮がんにかかって亡くなってしまいました。

もうだいちのめんどうもみてはもらえません。私が今まで以上にだいちの事もみてあげないと、母は何もしないので忙しくなりました。

母は私に19才の厄年に着る着物の準備だとか言って忙しくしていました。イベントにははり切って行動するのです。

喪服を買うと振り袖を何度でもレンタルできるそうです。私は何も知らないけれど母に連れていかれて着物を選びました。

19才の厄に私の大好きなおじいちゃんの実家で振り袖を着て写真を撮ってもらいました。私が学校から帰るとおじいちゃんのカブがいつものように止めてある。でも何かがおかしいのです。

どこを探してもおじいちゃんがいません。今の様にケータイにすぐ電話してという事もできないので待っているしかありません。

母が帰って来たので話しを聞くと、おじいちゃんは車との事故にあったという事で、市内の病院に入院する事になりました。

しばらくは市内の病院にいたのですが、回復の見込みがないという事でずいぶん遠い病院へ移される事になりました。

何度かお見舞いに行きましたがおじいちゃんは何度呼びかけても全く反応が無い。

手も包帯でぐるぐるまかれていて、本当にいきているのかなあと思うくらいでした。

おじいちゃんと同じ部屋には同じ様にベッドで寝ている人が何人かいましたが皆おじいちゃんと同じ様な様子で、何もしてあげる事ができずに私は胸を痛めていました。

私も進路を決める時がやってきました。すぐにでも働いてお金を稼がないといけないと考えました。

でもどうしても家を出たかった。だいちももう一人で家におれるし、私がいなかったら母も家の事もやるやろうと考えました。

私はパティシエになりたかったので、まずは当時有名だった大阪にある専門学校へ通いながら自分で働いて稼いで、勉強もして、今度こそ自由に生きてみたいと思いました。

それを母に言ってみました。母の答えはこうでした。「あんたは家におらなあかん。どこへも行かさへんで」と。

専門学校なら近い所にもあるから、そこならお金もなんとかしたるから、家から通いなさいと言われました。

私はパティシエの勉強がしたかったけど、近くにある専門学校は調理の専門学校でした。母に文句を言っても聞く耳なしなので、ここでも私には自由はないのだと思い仕方なく母の言う通りにしました。

お金がなかったので車の免許も取れませんでした。専門学校に入ったものの、私の本当に行きたかった学校じゃないので、何となく楽しくないと毎日過ごしていました。

母はいつも男がいないといけない様で前の男がだめだと、いつの間にか違う男を連れて来ていました。

私の着物を買ってから、自分のゆかたを買ってみたり、私の知らないうちに「さくらのやよ」と訪問着など買っていました。だんだんローンが増えていました。

私が何を言ってもだめなんです。母は本当に理解できない様な変な男ばかり連れてくる。お金も無い何がいいのか分からない男。私は家にいても楽しくないからバイトのない日は駅でブラブラしてから帰りました。

何ひとつ思う様にできない自分、母のなぞの行動、強姦された嫌な気憶、私はだんだんおかしくなっていたのかも知れません。ある日私はいつもの様に帰りのバスを待っていると、一台の車が止まりました。

私の方へ一人の男が近づいてくると一緒にどこかへ行かない、お茶でもしないと声をかけられました。

フラフラと車に乗ってついて行ってしまいました。お茶をするどころではなくホテルへ連れて行かれました。エイズがはやっていてよくテレビでも取り上げられていました。

死にたいという気持ちが完全に無くなっていたわけではなかったみたいで、もしこの男がエイズであって、自分も感染して死んだって別にかまわないと思っていたのです。

私がバスを待っているとこの男がやって来てホテルに行くという事を2~3回して、いつの間にか男は来なくなった。その間に私は男からあまり気に入らない安物の時計をもらった。すみれが、姉ちゃんと付き合いたい人がおるからどう?と言ってきたので、なんでもいいから付き合ってみるかと思って付き合い始めた。

私は人を好きになるという気持ちが分からなくて、彼に私の好意が無いのが分かった様でしばらくして別れようと言われいいよと即答した。

私には人を好きになるという感情が無いのかも知れない。母がまた違う男を連れて来た。今度は少しましな感じの男で今までの男とは違うと思った。それに今回はアパートから荷物も運んで来る様だった。

私は怖かった。ずっとこの男は家にいるんだ、今度はやられる前にやってやろうじゃないかこの行動は今思えばとても異常なものだった。

私はこわれていたのかも知れない。私は男と2人になった時に男を誘惑していた。

「ねえ、ちょっと気になる事があるんだけど、私の胸っておかしくないかなあ、ちょっと見てくれる?」男は「見てもいいの?」と言うなりとびつくように私を抱いた。

それ以後、毎日の様に私を求めた。私は相手の上に立つ事ができた、自分は傷つかずに済むなんて考えていた。今思えばこんな事はしないはずです。確かに私はあの時の様な思いはせずに済んだのだけれど、何一つ心は満たされてはいなかった。

おじいちゃんの具合いが良くないと病院から電話があり、母は男と病院へ行きました。おじいちゃんがとうとう亡くなりました。おじいちゃんが亡くなると母はお金を手に入れた様です。

高そうなバッグ等を買って私に見せました私にもいつの間にか着物を買っていました。母は好き勝手していました。そして今度は家を建てると言い出しました。

おじいちゃんとおばあちゃんの住んでいた母屋はカベをのぞくと外の光が入ってくるのが見て分かるほどすき間があったり生活しづらい家でした。

母の住む家も床がぬけ落ちそうなくらい古くてボロボロになっていました。家を建て変えるのには賛成でしたが、いくら資金があってどうするのか等全く子供達には話しがありませんでした。

私が荷物の整理もゆっくりできずにいるうちに、母屋の取りこわしが始まっていました。私が仕事から帰ってくると母屋が半分無くなっていました。

まだまだ取り出したい物がたくさんあったのにと母に言いましたが気にしていません。本当に何も考えていない母が私は本当に大嫌いでした。家を建てる会社もいつの間にか別の会社に変わっていました。

だまされたんじゃないのかと思いましたが私にはどうする事もできませんでした。大好きだったおじいちゃんの家が無くなってしまったのです。本当に悲しかった。

泥沼の底から光の射す大空へ 【全12回】 公開日
(その1)第一話「さくらの生まれた家」 2020年5月29日
(その2)第二話「さくらの心が死んでしまった夜」 2020年6月30日
(その3)第三話「ひとり」 2020年7月31日
(その4)第四話「だんだん落ちていく」 2020年8月31日
(その5)第五話「出合い」 2020年9月30日
(その6)第六話「母から逃れて」 2020年10月30日
(その7)第七話「空」 2020年11月30日
(その8)第八話 「離婚、そして再婚」 2020年12月28日
(その9)第九話「異変」 2021年1月29日
(その10)第十話「決定的な出来事」 2021年2月26日
(その11)第十一話「空との別生活」 2021年3月31日
(その12)第十二話「人間失格」 2021年4月30日