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第五話「出合い」 〜 泥沼の底から光の射す大空へ(その5)

さくら

三重県出身、1976年生まれ。
子供の頃から本が好きで、小説、漫画、アニメなどあらゆるジャンルの作品を見ます。

第五話「出合い」 〜 泥沼の底から光の射す大空へ(その5)

 私は就職して働き始めました。
地元のホテルの和食レストランです。
私は調理場で働きました。
 母は私に言いました。
「あんたを育てるのには苦労した。学校へ行かせる為にお金もたくさんかかったから今度はだいちの番やで、だいちが高校へ行くのにお金がかかるから、どこにも行かずにしっかり働いて家にお金を入れなさい」と。
 私は母の道具の様なものでした。
 妹は高校へは行かずに家を出て就職し、母から離れて自由になりました。
 私は会社の上司が車が無いと不便やからと仕事の時間をうまく調整してくれて自動車学校に行く時間を作ってくれました。
 お金が無いからといって行かないわけにもいかなかったので、父にたのんでお金を借してもらう事になりました。
父は母と別れてすぐの頃はよく私達に会いに来ていましたが、母が男を連れて来る様になると来なくなっていました。
 母が父の所へ私を連れて行ってくれました。
免許を取ると父は私に古い軽自動車を用意してくれました。
 私はそれに一年くらい乗ると自分の給料で何とか払えるくらいの新車をローンで購入しました。親せきの人に保証人になってもらいました。

新しい車を手に入れた事で私には一つ楽しみができました。
がんばらなくてはと思っても私には男ばかりの職場がきつかった。
何人もいる先輩達は皆が同じ事を言ったりはしません。Aさんの言う通りにしているとBさんにしかられたり、どうすればいいのか分からずに泣いていました。
毎日忙しくて、自分の車を洗車してきれいにする事が楽しいくらいでした。
お金も無く、一人でどこかに出掛ける事もありません。
会社では先輩の誘いを断って今よりひどい目に合うのも嫌なので付き合っていました。
色々あって一年くらいで体重が10kgほど減って、髪もばさばさ抜けていきました。
 相変わらず母はひどいやつで、「さくらは仕事が忙しいで行かないから私達だけで旅行に行って来るからね。」と私の予定を聞く事すら無く、自分達だけで出掛けて行きました。確かにあまり気のりしないわけですけど何もそんな扱いをしなくてもいいやろと思いながら腹立たしくも思いました。
母はイベントが好きなので成人式の写真を撮ると言ってはり切って私も着物選びだけ連れて行かれました。着付けやスタジオは全部母が決めていました。私には何の相談もありません。髪型や帯の結び方などされるがままです。
母の思うがままのお人形のようなものです。完全にこわれていたから私はこんな感じだったのです。
 その頃ハガキで何かが当選しましたよという文書を送り、契約書にサインさせる詐欺がはやっていました。私は詐欺と分かっていて引っかかりました。
金銭が発生するギリギリで解約の手続きをしたりして少しスリルを楽しんだりしていました。
 母の買ってきた着物のローンや自分で買ったエステや強性下着のローンでもう首が回らなくなっていました。
そこで仕事が終わってからのバイトを探しましたが、なかなかいい仕事はみつかりませんでした。
 私がいつもの様に仕事をしていると同じ会社で別の仕事をしている同い年の女の子が振り袖姿で「成人式だよー。」とやって来ました。
皆に見せに来たよと私はこの時はじめて今日が成人式だと気が付きました。
私の上司も「さくら、お前もちがうんか?何で言わへんだんね、休み取らなあかんやろ」と言われましたが、すっかり忘れてました。
家に帰って母に手紙とか来てなかったとか聞きましたが、知らないと言われました。
この頃ろくに友達付き合いもしていなかったので知らせてくれる人もなく、私は成人式に出席できませんでした。
自分でも何も気にする事なく働いて家で家事をする毎日で、すっかり忘れていました。
 何の為に生きているのか分からなくなり、ローンも大変な事になっていたので払う為に本気でバイトを探さないといけないと考えました。
私は少しでも給料のいいバイトを探して見つけたのですぐに面接に行きました。

はじめての夜のお店はキャバクラでした。
母が働いていたスナックとはまた別の感じで少しドキドキしましたがお金の為と思い、心に気合いを入れて行きました。
すぐに採用になりました。
私はキャバクラでバイトする事になりました。
母にはカラオケでバイトすると言ってありました。
普通の母親ならバイトまでして大丈夫?とか心配するところなんでしょうが、私の母にはそういった優しさはありません。
サービス悪いし高いから来たらだめだと言って、自分が働く事になっているカラオケには行かせないようにしました。それでも知り合いの人が来てとっても気まずかったときがあり、他の人にも来ない様に頼んでおきました。
私は新しい家に移ってから男から逃げていました。
もう新しい生活を始める為にも男との関係を切ろうと考えたのです。
 仕事が終わって家に帰らずにバイトへ行くのは本当に大変でした。お腹がすくので客に店にあるおつまみを頼んでもらって一緒に食べるのが私の夕飯でした。
体も疲れていましたが気力でがんばりました。

 私はバイトをしていた時にやって来た一人の客と運命の出会いをしました。
最初はいつものように席に座って普通に接客していたのですが、男性に一緒に帰ろうと言われました。
そのまま一緒に帰り、初めて会ったにも関わらずいきなり私に結婚してほしいと言ってきました。
私は最初びっくりしましたが、なぜか「いいよ」と答えていました。
まだ会ったばかりでこの男性の事を何も知らないのです。まだ何も聞いたりしていないそんな時に相手だって私の事を何も知らないです。
初めて会って結婚してくれと言う男性も変だしそれをいいよと言う私も変でしたが、この出会いから二人は付き合う事になりました。
 さすがに私も結婚するとなると、男性との付き合いを優先させなくてはならないので会社の人達には彼氏ができたからと関係をやめてもらいました。
この男性が私をあの母から離れさせてくれるんだと思い、やっと家から出て行けるんだと、この人を信じてついて行ってみようと決心しました。
 私の考えは甘かったのです。彼と付き合うようになると当然私の家に彼は何度も来る様になります。私にお金が無い事は彼に話してあったので、2人でアパートに住む事はやめようと言う話しになりました。
結婚すると言っても今すぐという訳にもいかないのでおたがいの家を行ったり来たりしていました。
私の知らないうちに母は彼にお金を借してくれと言っていたのです。
私はひどく後悔しました。
母がどれだけ頼んできても絶対にお金は無いと言って借してはだめだと言ってなかったのです。
私の母は自分の親せきの人にもたくさん借金をしていて全く返していないのです。
母は彼を飲みに行こうとかしつこく誘い、キスもしに来ると聞きました。
やってないからなと彼は言うので信じましたが、母はおかしいです。
また、家にいる男も私の彼に、私が自分にものすごくなついているよとか言うのです。
私は彼に言われてバイトをやめて、彼がその分私の支払いをしてくれました。
彼も私の母にお金を持っていかれて生活が苦しくなったと言うようになりました。
彼と付き合ってしばらくすると私は妊娠しました。
彼にも事情があって結婚はすぐには出来ないと言っていたのですがそうもいかなくなってきたから結婚式は出来ないけど、入籍だけでも早くしようという事になり、私は仕事を辞める事になりました。
 私が仕事を辞めてお金が入って来ません。
彼もためていたお金を母に持っていかれて頭金も無くなり、出産費用をどうしようかと二人で悩みました。二人で車に乗っている時、夫はこのまま車でつっ込んでいっそ死んでしまおうかとまで言うようになりました。
私もお腹が大きくなるにつれだんだん不安になって、幸せを感じているばかりではいられなく心が落ち着きませんでした。
 夫も私に「大丈夫やなんとかなるよ」と言ってみたり、ものすごく暗い顔で悩んでいたりコロコロ言っている事が変わったりして精神的に壊れていく様な感じでした。
私は自分が壊れている事が分かっているので夫まで壊れていくのを見ていてどうにもできない事を本当にくやしくて仕方が無かった。
私も夫もどうしていいか分からずパニックになっていたけれど、夫は休む事無く懸命に働いてくれていたので、何とか出産準備は整える事が出来ました。
でも出産費用が準備できなくて、母に貸したお金を返すように言うと何とかすると言いました。
これで少しは安心できると思いましたが本当に大丈夫なのかという不安もありました。
 つわりがそんなに大変ではなくて何回か吐くくらいでしたが、一度食事中にいきなり吐いてしまった事がありましたが、母は知らぬ顔で食事を続けていて、私はトイレから戻ると自分で片づけました。
母は本当に母親とは思えない人で、私は母が父と離婚してから何もしなくなってずっとけんかばかりして言い争いを続けていて、本当に私は母が大嫌いでした。