作品紹介
『エスペランサ』(上・下)等 6作品同時刊行
郷原茂樹
《短編小説集》シネマチック・ロマン
郷原茂樹
航空会社の若いパイロットとアラサー人妻の客室乗務員。彼のオートバイで二人は沖縄の海岸を走る……カラフルで軽快な展開。映画を観ているような独特の小説世界。『空のキツネ』など、さまざまな愛を描く5編の短編集。
《中編小説》ポマンダーの薫り
郷原茂樹
謎のフランス娘。マリーのピアノの音色には、三代にわたる心の傷の疼きがひそむ。さまよう他はないマリーと、偶然に出会って翻弄される初老の実業家。鹿児島、博多、神戸、東京をステージに、やがて二人の心が共鳴する。
《中編小説》遠い雪山の眩しさ
郷原茂樹
大学時代のセクハラを忘れようとして29歳まで真実の愛を求め続けてきた女性。婚活の落とし穴で麻薬に手を染めてしまう。彼女を救おうとする中年のデパートマン。人を殺したトラウマを背負う彼は──。二人が逃避行した琵琶湖の町。遠い伊吹山の雪が再生の希望のように輝く。
《長編小説》エスペランサ(上・下)
郷原茂樹
地震、津波、原発事故……東日本を襲った災害。テレビ局の報道番組の辣腕プロデューサーや美人キャスターを軸に、原発に立ち向かう自衛隊、生活の場を奪われた畜産農家、あるいは復興支援に立ち上がる市民など、さまざまな群衆が交差する圧倒的なヒューマンドラマ。鹿児島から東北へとエスペランサという名の青いトラックが走る。
《歌詩集》愛(かな)しげな人々よ
郷原茂樹
ただひたむきな愛、たどり着けぬ恋。……みずみずしい詩情と端整な形式が、読む者の心に切なく迫る。なかには恋に恋をした十代の頃に創作した初々しい歌詩もあり、さらに「番外編」は自由気まま、破天荒なほどに愛を歌い上げる。曲のない全50曲。日本の誰もが知らなかった歌詩の登場。
プロフィール
郷原茂樹
鹿児島県出身。大隅半島芸術村(南風図書館)村長。
著書/小説「奄美物語」(八重岳書房)、小説「帰ってゆきたい景色」(勁草書房)、小説「東京友禅」(河出書房新社)、詩集「雨は降り、雨はやむ」(思潮社)、随想「こに『私』はいる」(南風図書館)、CD「夕日のコンサート」(南風図書館)、その他、小説、詩集、創作の民話や童話など多数。
2019年4月に短編小説集「シネマチック・ロマン」、中編小説「ポマンダーの薫り」、「遠い雪山の眩しさ」、長編小説「エスペランサ」(上・下)、「歌詩集 愛しげな人々よ」を同時刊行(いずれも幻冬舎メディアコンサルティング刊)。
インタビュー
今回、6冊を一斉に上梓されたのは、どんな経緯によるものですか?
6冊とも最近、創作されたのですか?
『エスペランサ(上・下)』は東日本大震災時に構想し、2年ぐらいで書き上げました。これを読んでくださった幻冬舎ルネッサンスの女性編集者から、「あなたの本来の作品ではない」と言われました。実際、パロディ風な作品を書くつもりだったのです。
そこで新たに創作したものが4~5年前に完成したのですが、その編集者が辞職しておられ、再度意見を聞くことは出来ませんでした。
そのまま作品はずっと眠っていましたが、今回、南風図書館のオープンを切っ掛けに、本にすることになりました。
他の作品も眠っていたのですか?
いいえ。南風図書館の起工式を終えた後、『ポマンダーの薫り』と『遠い雪山の眩しさ』を書き上げました。そこで、もう一冊、ちょっと軽いものがほしいな、という気になり、短編小説を手がけたところ、5編を2週間ほどで完成させました。……創作は楽しいのですが、短編小説にあまりに集中して取り組んだため、目が痛くなりましてね。その後、校正とかもあり、今も目が痛いところですよ(笑)。
『愛(かな)しげな人々よ』は若い頃から書きためていたのですね?
そうなのですが、ほとんどすべて放置しておいた作品です。というのは、南風図書館が完成したため、今まであちこちの倉庫などに放り込んでいた本や資料などを全部、図書館に収納することにしたのです。その際、段ボールのなかをチェックしたりしたら、いろいろ紛れ込んでいて、たくさんの歌詩が出てきました。で、この際、50編を選び、整理したというわけです。
今回は選ばなかったものもあると思うのですけど、総数でどれぐらいになるか、よく分かりません。以前に幻冬舎メディアコンサルティングで3冊本にしてもらいましたが。……ともかく、南風図書館のオープンの景気付けにと、今回、1冊にまとめてみました。
南風図書館とは、郷原さんにとってどんな意味があるのですか?
私が創作する場であり、また作品を展示販売する場です。
何故、それを開設しようと……?
まず何よりも、自分の作品を半永久的に存続させたいと思ったのですよ。グローバルな流通に委ねると、自分の作品は消費商品としてすぐに価値がなくなってしまいます。どうすればいいのか、いろいろ考えてみましたら、例えば、陶芸家は自分の窯場を持っていて、そこで作品を作り、そこで展示販売していますよね。
私は気づいたのです。自分にも創作する拠点を作り、その拠点で作品を展示販売したら半永久的に作品は存在すると。
それに気づいたのは、いつ頃のことですか?
ざっと20年前でしょうか。当初の南風図書館は木造の山小屋みたいなものでした。そこは創作のためだけの場所でしたが、雄大な風景を眺望できる丘の上でしたので、庭にツツジやムクゲ、桜などを植え、薫りのよいオガタマや夜香木なども植えたりしました。そして親しい人たちを招き、四季折々に花祭りや詩の朗読会などを開いていました。
でも、私は当初からいつかはヘミングウェーの邸宅のような図書館をつくりたいと思っていましたから、今回、頑張ってそれを実現しました。
どうしてヘミングウェーなのですか?
私は少年時代から小説や詩を創作するのが好きだったのです。しかし鹿児島では女々しいことだとあざ笑われるので、いつも誰にも分からないように創作していました。高校時代、ヘミングウェーを読んだとき、これは女々しい世界ではないと思って、勇気をもらいました。
今から十数年前、私はアメリカのフロリダ半島の沖にあるキーウェスト島に出かけ、ヘミングウェーが住んでいた邸宅を見物しました。その瀟灑(しょうしゃ)な建物の風情に魅了されましたが、それ以上に、感慨深かったのは、それがアメリカの最南端の半島の、さらにその沖の小さな島の南端に建っているということでした。つまり、それはアメリカの辺境のなかのさらに辺境にあったのです。
それと前後して、キューバにあるヘミングウェーの邸宅を訪ねたら、そこもハバナ郊外の農漁村の丘の上にありました。
私は日本の本土最南端の大隅半島(大いなる隅っこ)に住んでいます。まさに辺境で創作しているのです。そういう意味で、ヘミングウェーのライフスタイルに励まされましたね。
ヘミングウェーの代表的な小説は、パリやマドリード、アフリカなどを舞台にしていますね。それはどう考えますか?
それがすごいと思いますよ。身は辺境にあっても魂は世界と響きあっているわけですから。……例えば、宮沢賢治の場合、身は岩手の花巻という辺境に置きながら、宇宙に広がる魂を持っていたわけですよね。それが作品に永遠の命を生み出していると思うのですよ。
なるほど。……他に好きな作家はいますか?
ガルシア・マルケスは南アメリカの辺境の文学を、世界の文学にしましたね。ル・クレジオはパリを離れて世界の辺境に出かけ、世界中に支持される作品を創作していますね。……いや、辺境ばかりを言うのはちょっと気障になりますから、別の作家として、例えば五木寛之氏ですけど、私は若い頃からほとんどの作品を読んでいますよ。あの人のデラシネという存在認識にはひかれますね。
郷原さんの作品を読んでいると、映画を観ているような感じになりますが、映画化を意図しているのですか?
そんな意図はありませんよ。昔からそんな風に言われてはきましたけど、私としては、読者の心に音楽が聞こえてくるような作品をつくりたいという気持ちはありますね。例えば『ポマンダーの薫り』では、ピアニストの仲道郁代さんが弾く「トルコ行進曲」とか。『エスペランサ』のラストシーンではポール・モーリア・サウンドの「エーゲ海の真珠」とか……。もちろん、それを聴きながら創作しましたね。いや、読んでくださる人は、それが聴こえてこなかったら、そのCDを聴きながら読んでほしいですよ(笑)。
郷原さんは、これからどんな作品を手掛けるつもりですか?
うーん。それは、まぁ、企業秘密ということにしてください(笑)
最後に、読者の皆様に一言お願いします。
私のつたない作品ではありますが、たくさんの人に読んでもらいたい、と願っています。
だけど、それはそれとして、南風図書館にぜひ遊びにお出かけください。何はなくても、ただ風景を眺めるだけでも、ほっと生き返った気持ちになれると思いますから。