作品紹介
砂漠-アルチュール・ランボーへの旅-6月11日発売!
素九鬼子
俺の墜落と昏睡とを語ろうと努めてくれ。
―『地獄の季節』より―
19世紀を代表するフランスの詩人・ランボー。
そのゆかりの地で、彼の幻影を追い求める。
イラストとともに綴る、放浪物語
素 九鬼子作品集 いっしょうけんめい
素九鬼子
「生きる」ために手を動かし続けた、10年間の記録
身近な人が臥せってしまった時に、
自分を保つための方法として選んだのは、
せっせと手を動かし続けることだった。
時には針と糸に、時には土と釉薬に。
無心になった手のひらから生みだされた多彩な刺繍作品と、
穏やかな表情のお地蔵さまたち。
約10年間の心の動きを収めた写真集。
冥土の季節
素九鬼子
93歳のお婆は、穏やかに死ぬための場所を探して旅に出た。
身長160cm。色黒。前科三犯。父親は日本生まれのやくざ、母親はフランス国籍の四流歌手。
かつて行動力のある美人のワルとして名を馳せたお婆は、
自分の死に場所を見つけるための旅に出る。
唄歌いの若者とのふれあい、人の良い老人との出会い、タップダンスを踊る不良大学生グループ、変な子ども。
道中で様々な人と関わるも、マイペースを貫くお婆の姿に、生きる強さを感じさせられる。
プロフィール
素九鬼子
素 九鬼子(もと くきこ)
昭和12年生。三十代、フランス、スペイン、イギリス、
オランダ、スイス、ドイツ、4歳児同伴放浪。
作品紹介
砂漠-アルチュール 内容紹介・ランボーへの旅-
あの男の、ここが故郷か。鉄と氷雨の国か。黄金の渇きの郷か。豪奢な地平線の岩窟の町か。シャルルビルか。
こうした偏執の海峡を越えていくのが、わたしの旅であり、あの男への、証拠かためだった。ざらざらした表面の、正直な、向う見ずな形の、証拠である。形とは、この世に残された、あの男の眼光だ。思いがけない存在の、影だ。その影こそが、他ならぬ、わたしの身内であり、そこに深く潜って行って、暴くのが、わたしの使命であった。いわば、山師の手品である。が、時には、わたしの鏡に、曇りがかかることもあった
「わたしは、プーセと申しますんで。この博物館の鍵を預かっている、この町で、たったひとりの、幸運者です。」
彼は長身で、北國の男特有の、ピエロのような赤い頬をしていた。気の弱そうな伏目で、男は、語った。
冥土の季節 内容紹介①
「住み慣れてしまうと、もうどこにも今更行く気がせんのじゃ。八十をこえたみにや、どこへ行こうと行き着く先はついじゃけんな。滅多に人のこんこの山の中は、まさに極楽浄土かもしれん」
独り言のようにぼそぼそ話します。山風、蝉の声、虫の声で、老婆の耳にはよく聞き取れません。だいたいのところはわかったような顔で頷いてみせます。
冥土の季節 内容紹介②
梟の声が聞こえます。虫の声がにぎやかです。山風が鳴っています。お婆はいつものように前屈みになって急な坂道を杖もなく登っていきます。まだ夜明けには遠いのでどこかその辺でもう一眠りしよう。大木の根元にリュックを投げ出して崩れるように横になりました。
冥土の季節 内容紹介③
インチキに騙される遍路もいるもので、懐から財布をだすのがけっこういます。子分とおぼしき若者たちが、激しくにぎやかに歌い踊りしています。都会でよく見かけるパフォーマンスで、人々の足を止めて親分の薬の売り上げに貢献しているようです。
冥土の季節 内容紹介④
小さな台風がやってきました。
台風の去った初秋の山道に勢いよく鉄砲水が走ります。