作品紹介
12のストーリーで高める
バンカーの教養
武村 和正
間近に迫るAI時代に向けて、生き残りを策するバンカーに必要なものは何か。それは、自分自身の競争優位を確立するための差別化技術である。他のバンカー、そしてAIに対する差別化の源泉となるのは「教養」。
本書は、今どきのバンカーが高めるべきマクロ経済・企業経営・金融市場にかかる必須教養についてストーリー仕立てで解説を試みている、まさに至高のビジネス書である。
第一部 マクロ経済
日本財政の破綻説の真偽/新興国のカントリー・リスク評価法 ほか
第二部 企業経営
ビジネスにおける「ゲーム」/全体最適化とボトルネック/銀行の競争優位の戦略/不確実性と「黒い白鳥」 ほか
第三部 金融市場
サブプライム問題を再検証する
プロフィール
武村 和正
1970年生まれ。1993年に国内の大学を卒業後、信用金庫の中央機関に勤務。金利・通貨デリバティブのトレーディング、証券化商品の組成、プロジェクト・ファイナンスやソブリン・ファイナンスの審査などに携わる傍ら、各業務について全国の信用金庫役職員向け研修を企画し、講師を務めた。
同機関に在籍中の2001~03年、米アリゾナ州立大学経営大学院へ留学し、経営学修士(MBA)取得。また2009~11年、公益財団法人・国際金融情報センターへ出向。新興国のカントリー・リスク調査に従事した。
退職後、損害保険会社を経て、現在は地域金融機関勤務。
主な著作に「ハンガリー共和国 財政の持続可能性」(『国際金融』2011年3月号)がある。
インタビュー
貴著が刊行されました 今のお気持ちはいかがでしょうか
ホッとしたのと同時に、「次は何をしようか」と新たな意欲が湧いてきました。
私は天職をアナリストもしくはエコノミストだと認識しています。そうであれば、書籍の1冊も発表できなければ「自称」に過ぎません。その意味で、本書の刊行をもって「ホッと」できました。
一方で、次の1冊を送り出すには何が必要だろうかと考えると、本書で紹介した内容とは違う、新たな分野に挑みたいという意欲が充ちてきたところです。
今回出版しようと思ったきっかけはなんだったのでしょうか?
銀行・信用金庫職員(バンカー)は「教養」の大切さに気付くことで、顧客に尊敬される存在になれると思ったからです。
バンカーは入行以来、さまざまな検定や資格試験を受験します。けれども、大半は形式的なものであり、実務における応用を目的とした教養の習得ではありません。そのためでしょうが、一般的なバンカーはマクロ経済を語るのが苦手であり、顧客に戦略的なアドバイスを与えることにも躊躇いがちです。しかしながら、常に「教養を高める」という意識を備えるようになれば、自身を取り巻く環境、つまり顧客との関係に劇的に変化が生じると考えられるからです。
どんな方に読んでほしいですか?
直接的には銀行・信用金庫職員(バンカー)です。今どきのバンカーに求められるのは、自行および自分自身の競争優位確立のための差別化技術であり、その源泉となるのが「教養」です。本書はバンカーに必須の、マクロ経済・企業経営・金融市場にかかる教養とその習得方法を解説したものです。
一方で、本書はバンカーが顧客との信頼関係を高めるための「教養」を論じたものですから、裏返せば顧客にとって有益な知識や技術を集約した内容です。企業経営者が直接手に取っていただいても十分に役立つと思います。
座右の一冊
ブラック・スワン
著:ナシーム・ニコラス・タレブ
洞察力とは何かをこの本から学ぶことができた
ここが魅力
『バンカーの教養』のテーマである「教養」を高めるためには、深い洞察力を身につける必要があります。 『ブラック・スワン』は、金融市場を生き抜いてきたタレブ氏がその経験をベースに、深い造形をもつ哲学・論理学や確率・統計学などの知識を重ね、人間が経験や観察から学べることはとても限られていること、そして人間の知識はとても脆いことを描き出しています。洞察力とは何か、私はこの本から初めて学ぶことができたと思っています。
ヒストリー
- HISTORY 01 2001年~ 「専門教養」を身につける
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2001年~
「専門教養」を身につける
米国・アリゾナ州立大学のMBAプログラムで学んだのは2001年~2003年。1学年150名のうち日本人は私一人でした。 強い衝撃を受けたのは、米国人に限らず、大勢の中・印・韓・ブラジル人などがビジネスマンとしての「専門教養」を身につけようと、借金をしてまで安くない授業料を捻りだしていたこと。社内政治に明け暮れる社員が集まる本邦企業が、国際競争で後塵を拝するようになる主因を垣間見続けた2年間でした。
- HISTORY 02 2009年~ (公財)国際金融情報センターに在籍
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2009年~
(公財)国際金融情報センターに在籍
(公財)国際金融情報センターに在籍した2009年~2011年の間、調査担当国の一つがハンガリーでした。 同国は混乱期にあり、2010年には国際金融市場を揺るがすイベントまで発生しました。当時、日本国内で常時分析に当たっているエコノミストは3名足らず、一方で円建てハンガリー国債の残高は数千億円規模であり、エコノミストとして緊張の日々を送りました。 自分がそれまでに高めてきた「教養」の真価を発揮できたのは、まさにこの時のエコノミスト業務でした。
人生を変えた出会い
米国のMBAプログラムへの留学、それこそが私の人生を変えた大きな経験です。
私は社会人になってからずっと、社内政治を毛嫌いしています。座右の銘は「誠実であること」ですが、社内政治はまさにその対極だからです。私が長い間抱いていた疑問は、なぜ本邦文系ビジネスマンは社内政治に明け暮れるのかということでした。
米国でのMBAプログラムの経験によって、その疑問はほぼ解消しました。MBAで学習したのは当時の本邦企業に大変希薄だった概念、たとえば経営理念やビジョンを掲げる意義、競争優位の確立と差別化、経営戦略の重要性、企業価値の算定と最大化、人材評価・育成方法などです。それらはすべて、企業が利益を上げるあるいは企業価値を高めるという目標を達成するために必要な「専門教養」です。この専門教養を身につけ、常にそれを高める努力をしているビジネスマンは、社内政治などに精力を注ぐ必要はありません。
一方、本邦の文系ビジネスマンは「専門教養」を高めようという意欲が希薄です。それこそが社内政治がはびこる主因であり、そういった現状に一石を投じたいと思い立って出版したのが本書です。
未来へのメッセージ
私自身の国内外でのさまざまな経験と照らして、日本の企業社会に欠けているものを考えてみると、文系ビジネスマンの「専門教養」を高めようという意識の希薄さとともに、ビジネス教育機関の不足と未整備が目につきます。
先進国のみならず、昨今では新興国企業においても、日本でいうところの「文系」社員が、企業経営に関する知識・技術と併せて、経済や金融市場に関する深い造詣、つまり高い「専門教養」を蓄えていることは珍しくありません。
ところが日本では、ビジネスマンの中でも高い専門教養を身につけていると期待されるべき銀行・信用金庫職員(バンカー)ですら、事業会社のビジネスマンから尊敬を集めている例は稀でしょう。こうした現実の影響でしょうか、日本では高学歴者ですら、政治や経済について語るとき、理論的・体系的に議論するのではなく、イデオロギーだけで片付ける傾向が目立ちます。
ですから、ビジネス教育機関の教壇に立つ、それが私の将来的な目標です。