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第十話「決定的な出来事」 〜 泥沼の底から光の射す大空へ(その10)

さくら

三重県出身、1976年生まれ。
子供の頃から本が好きで、小説、漫画、アニメなどあらゆるジャンルの作品を見ます。

第十話「決定的な出来事」 〜 泥沼の底から光の射す大空へ(その10)

夫婦関係が最悪の状態でした。

私は仕事から家に帰りたくなかった。

玄関のドアを開けようとすると死にたくなるぐらいでした。

会社で少しずつですが仲の良い人も出来て楽しくなってきたので、会社にいる方がまだ良くなっていました。

夫はいつも不機嫌で、空にはなるべく休まず部活に行って、家には遅く帰る様にと言ってあったので、大好きな空とはあまり会えない。

本当につまらなく、また辛い日々でした。

 私は休日が楽しみでした。夫が仕事に行っていていない日です。

一日ゆっくりと買い物に行ったり、大好きなマンガを見たりして、一人こっそりコンビニスイーツを買って食べたりするのが、ささやかな楽しみでした。

 ある日の事でした。たまたま三人の休みが一緒になって、私は台所にいました。空もリビングのソファーでくつろいでいました。最近夫はちょくちょく空をかまうのですが、もう高校三年生の男の子が父親に抱きつかれるようなスキンシップを喜んだりしません。小さい頃にあまりそういう事をしてこなかったので、「今頃になって何でだ‼」というのが私と空の思いでした。

 私はまた始まったのかと、台所から様子を気にしながらも作業をしていたのですが、空がいつもの様に嫌がって抵抗していたのですが急に騒がしくなって、夫が大声を出してきたので何かあったかと思い見に行きました。

夫が空に馬乗りになって殴りかかっているではありませんか。

これはいけない大変だと私は夫を蹴りました。

空から急いで引き離さないといけないと必死の思いでした。

夫は「何でお前はオレの味方をせえへんのや。」と言って、ものすごく怒って階段のカベを殴って2階へ上がって行きました。

 私は空にかけよりました。

「大丈夫か?何とも無いか?」

空は何でこんな事になったのかを私に話してくれました。

そして恐かったと言いながらもとても怒っていました。

すぐにでも出て行きたかったのですが、やはり気がかりなのは自分の足の事でした。

いつ足がだめになるか分からないし、急に入院とかなったら、空と二人ではやっていけないだろう。せめて空が卒業して働き始めるまではという思いがあったので、急に出ていくという事は考えられなかった。

 それからしばらくは、空と夫をなるべく会わさない様にしていました。

空にも言い聞かせていましたが、私が家に帰って大事な空が殺されていたらどうしよう、もう生きてはいけないなどと考え、もしもみ合いになって空が夫を殺してしまったら、何も考えずに空を守るしかないだろうと考えました。

もう仕事どころでは無い様な日々を何日か過ごしていました。

空は休日は家に帰って母ちゃんにも会いたいやんか、でも父ちゃんが家におったら絶対にもう帰りたくなんか無い、安心して帰れる家を作ってよと言いました。

私はようやく、空の本当の気持ちを知って決心しました。

 「空、家を出よう」

そうと決まれば色々と準備しやなあかんなあ。

ここから私と空は夫に気付かれない様に準備に取りかかりました。

 住む家を探す。荷物を整理する。

とにかく全部を持って行く事はできませんから、空の本やコレクションを売りに行き、多少のお金にして、もうすぐ卒業だからそれなりの部屋にしないとと夫には言いながら空の部屋を片付けました。

私は夫に知られるといけないので何もしなかった。

 アパートが決まり、妹に協力してもらい、段取りが整うと、いよいよ作戦開始。

夫が仕事に出て行ったのを確認し、夫が仕事から帰ってくるまでに引っ越しを完了させなくてはならないので時間との戦いでした。

 ゆっくりご飯を食べている時間などありません。コンビニでおにぎりを買って食べながら車で移動、ドキドキハラハラの引っ越し大作戦でしたが、夫が仕事から帰ってくる前に何とか無事に終える事が出来ました。

 ここからすべてが始まりました。

電化製品を持って行くと夫が返せと言ってくるといけないので、なるべく持たずに家を出ると決めていました。

空とも相談して、決して何も言われない様にしようと、わざと置いてきました。

 夫は離婚したいと相談しても決して話しを聞く様な人間では無かった。

夫の事をよく知る親戚の人に間に入ってもらって一緒に話し合ってもらおうかとも考えましたが、殺されるかもと空が怖がりました。

警察にも相談に行き、黙って家を出る事にしたのです。

引っ越しの日には家の週りを警察の人が見守ってくれるという事で、私達は無事に引っ越す事ができました。

 夫は仕事から帰るとすぐに電話をしてきましたが、私は出ませんでした。

しばらくは電話には無視しましたが、何も話し合わずに家を出て来たので、しばらくして落ち着いた頃夫からの電話に出ました。

 私は家を出る時に離婚届を書いて置いてきました。

夫は自分も書いて役場へ提出してきたと言いました。

そして空が卒業するまでの受業料を払うからと言いました。

あと、私の車のローンの事とか色々と電話で話しましたが、元夫はどうして私と空が家を出て行ったのか、いまいち分かっていない様子でした。

 元夫にとってみれば、自分を捨てて出て行った私と空を悪者だと思っているのです。

だからもう二度と出て行ったりしないと約束したのに裏切り者やうそつきやとか何度も言われました。

 私はしばらく考えました。

やっぱり元夫はかわいそうかな、でも空はもっとかわいそうに。

ひどい目に合ったんだよね、これで良かったんだよねとか色々考えて、気になって仕方無い日をしばらく過ごしました。

アパートに引っ越して、しばらく生活が大変でした。

冷蔵庫も何も無くて、お金がなかったので、一番安い冷蔵庫と洗濯機をとりあえず買いました。

届くまではクーラーBOXに飲み物を入れてスーパーで氷をもらって冷やして、おにぎりやパンを毎日買いに行くという生活を続けて、仕事の休みには銀行にカードローンを申し込みに行ったりとあっという間に毎日が過ぎて行きました。

 冷蔵庫と洗濯機が届いた日は、私も空もやっと来たあと喜びました。

妹がその間に電子レンジや細々した物を届けてくれたりしていて、いつか返してくれたらいいからと本当に助かりました。

 私も銀行カードを作れたので、何にも無い台所に食器棚と机とイスを買ったりして少しずつ生活しやすい様に物を増やして行きました。

カードの使用金額、支払金額を見て頭を抱える事になったり、空もバイトを始めて助けてくれたり、私と空の二人の生活が始まり、いよいよやっていかなきゃと私はよしやるぞ‼と意気込みました。

 私は仕事をはり切ってしていました。

空はバイトに就職試験、自動車学校とものすごく忙しくなってきました。

 私は空に何度も就職試験前はとても気を付けて、ケガとか絶対しないようにするんだよと言いました。

 空もおっちょこちょいな所があって自転車でも何度も転んでけがをしているので、いつもよりも用心深く注意する様にと言い聞かせていました。

 私が仕事を終えて家に帰り、夕飯の用意をしていると、空が帰ってきました。

見ると指にテーピングがしてありました。

すぐにどうしたのか聞くとアルバム用の写真を取る為に公園に行っていて、空き時間にふざけていた生徒が座っていた空にぶつかってきて、手を踏まれたので明日は学校から病院へ行く事になっていると聞かされました。

 ポキッと音がしたから折れていると思うと空は言いました。

あんなに空には注意する様に言って空も私の言う事を守っておとなしくしていたのに本当に災害は向こうからやってくるんだと思いました。

ひどく怒りがこみ上げてきました。

 私が仕事をしていると学校からの電話でやはり骨折しているので、先生からの話しもあるので来てほしいとの事で、私は帰る事になりました。

 病院から紹介状を出してもらうので大きな病院で手術を受けてほしい、学校でのけがであり加害者の親との話し合いなど色々とこれからありますが、申し訳ないという先生からの話でした。

 就職試験では体力検査もあったので、もうだめだと空は落ち込みました。

自動車学校も学科教習はできるけど運転はできないと言われました。

指がよくなってからでないと難しいとの事でさらにバイトも調理の仕事だったので、もうトリプルショックで空をなんとか元気付けようと、私も大変でした。

 空は手術を受ける事になり、私も仕事を休んで連れて行き、痛いやろ、かわいそうにと手術室の前で待っていました。

 空は痛い痛いと言っていて、本当に変われるものなら変わってあげたいと、私も泣きたい思いでした。

 お風呂に入る時はビニール袋をかぶせてゴムで止めて、ぬらさない様にしたり、服を着る時そっとそでを引っぱったりと、空がストレスにならない様に色々気を使ったりしました。 

結果空は第一志望の就職試験では落ちましたが、勉強の成績がだめだったみたいで良かったのか悪かったのか。

空をひどい目に合わせた同級生の子も同じ第一志望で空と同じくだめでした。

二人とも合格できたら良かったのですが二人ともだめだったので、仕方のない事だと私も思いました。

そして空と相手の子も、今まで通り仲良くやっていると空から聞いて、私は安心しました。そして二人は同じ所に就職しました。

 ひとまず空の就職が決まり良かったと、次はそれに向けての準備です。

寮生活が始まるので色々と準備するものがたくさんあって大変でしたが、揃える事ができました。何とか自動車学校も間に合わせる事ができて無事に免許も取れて良かった。

あとは卒業式です。

 空の卒業式に色々な思いがいっぱいこみ上げてきました。本当は空と抱き合ってわあわあと泣きたい所でしたが私はがまんして、少し泣きました。

 空と仲良しだった友達にサプライズの花束を渡して、空をおどろかせて、私は一人満足していました。

 さて、空も無事に卒業しました。また新しく生活が変わります。空が就職先の寮に出ていくまではあっという間でした。