目を覚ましたら、私は見知らぬ部屋のベッドに横たわっていた。
「ここ、どこ?」
(周りを見ても知らない荷物ばかり。どう考えても、私の部屋じゃないけど……もしかして私、誘拐された? まさかね……)
「とりあえず、起きなきゃ」
ベッドから抜け出そうとしたとき、部屋のドアが開き、入ってきたのは、高城さんだった。
「よかった、目が覚めたんだな」
高城さんは私の様子を見て、それだけ言うと安堵の息を吐いた。
高城さんがどうしてそんな様子でいるのかわからない私は思い切って尋ねてみた。
「あの、私どうして?」
「覚えてないの?」
「ええ……」
「俺が仕事から帰ってきたら、黒崎さんが部屋の前で倒れていたんだよ」
「えっ?」
「びっくりしたけど、とりあえず安全な場所に移した方がいいと思ってここへ運んできた」
「えっと、じゃあここって?」
「俺の部屋」
(高城さんの話を聞いて、私がここにいる理由はわかったけど……でも、どうして?)
私はふと気になったことを高城さんに尋ねてみた?
「ねえ高城さん。一つ聞いてもいい?」
「何かな?」
「あの……私自分の部屋の前で倒れていたんだよね? なら、どうして私の部屋に運ばなかったの?」
「やはりね。その答えなら簡単。自分を守るためと言っておこうか」
「自分を守るため?」
高城さんの言っている意味がわからず、首を傾げていると、高城さんに思いっきり苦笑いされた。
「黒崎さん、もうちょっと自分のこと気にしような。君さ、初めて会ったときにも思ったんだけど、自分が女だってことを忘れていない?」
「忘れていませんよ」
(いきなり何を言い出すのかと思えば、失礼ね)
「それならいいけどさ。さっき君が言ったように、倒れている君を君自身の部屋に運べばいいと思ったよ。けど、そうすると君の部屋の鍵を探さないといけない。鞄や財布の中、洋服のポケットの中を勝手に探すことができる? それが、男同士で職場の人間同士ならまだしも。顔見知り程度で異性ときたら男性よりも女性の方が嫌がるだろ? だから、俺の部屋に運んだ。その方が必要以上に体に触れることもないからな。今も君を怖がらせないよう扉に凭れて話しているのはそういうことだ。それから、君のために言っておくが親、兄弟、恋人以外の男に必要以上に住んでいる場所を教えたり、部屋に上げたりしないこと。男はその気がなくても女性の部屋にいたら何をするかわからないんだぞ? もっと、自分のことを考えた方がいいよ!」
「ごっ、ごめんなさい!」
心配しているから、怒っているんだと気付き、私はとっさに謝っていた。
「フッ。いい、俺も言い過ぎた。とまあ、君がここにいた理由は今言った通りだ」
「はいっ。ありがとうございます」
「どうする? このまま帰るか?」
「帰り……」
──グーーーギュルギュルーーーー
帰りますと言いかけていたところで、盛大におなかが鳴ってしまった。恥ずかしくておなかを押さえていると
「ブハッ、ハハッ」
笑い声につられて顔をあげてみると、高城さんが腹を抱えて笑っていた。その様子を見て恥ずかしくなり思わず顔を赤くしてしまった私は、高城さんが笑い終わるのをただじっと待っていた。
「あー笑った。こんなに笑ったの久しぶりかもな」
「そうですか」
私は笑われた恥ずかしさもあって、棒読みな言い方になってしまった。
「笑わせてくれたお礼もかねて、ここでご飯でも食べていきなよ」
「えっ? でも……」
「いいから、いいから。すぐに準備するから、ちょっと待ってて」
高城さんに押し切られるような形で食事をすることになった私。けれど、それを嫌と思わない私がいた。やがて、
「できたぞ」
と言われてテーブルを見ると、そこにはおいしそうな料理が並んでいた。
「ありがとうございます」
出来上がった料理を二人で食べ、たくさん話をしたあとで、私は自分の部屋へと戻った。
それからというもの、私は時間を見つけては高城さんの部屋へ遊びに行くようになった。そして、彼を恋愛感情で見るようになり、玉砕覚悟で告白をしたらOKの返事をもらい、私たちは恋人として付き合うことになった……。
「おい、薫! お前ちょっと待て!」
後ろの方から怒鳴り声がしたので、そこで回想が途切れた。
物語と現実 【全12回】 | 公開日 |
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(その1)物語と現実 | 2019年4月11日 |
(その2)物語と現実 | 2019年5月10日 |
(その3)物語と現実 | 2019年6月26日 |
(その4)物語と現実 | 2019年7月3日 |
(その5)物語と現実 | 2019年8月26日 |
(その6)物語と現実 | 2019年9月6日 |
(その7)物語と現実 | 2019年10月4日 |
(その8)物語と現実 | 2019年11月1日 |
(その9)物語と現実 | 2019年12月6日 |
(その10)物語と現実 | 2020年1月10日 |
(その11)物語と現実 | 2020年2月7日 |
(その12)物語と現実 | 2020年3月6日 |