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物語と現実 〜 物語と現実(その6)

秋章

大阪府生まれ。小説を書き出したきっかけは、学生時代周りの友人が小説を書いていることを知り、自分も書いてみようと思ったこと。

物語と現実 〜 物語と現実(その6)

夢を見た。知らない部屋で知らない人が私に背を向けながら、何かを必死に書いている。その人は時折、頭をかいたり、気に入らない原稿用紙を丸めて投げ捨てたりしていたけど、一度も投げ出すことなく原稿を書き進めていた。
夢の中の私はその人がいったい誰で、何を書いているのか気になって何度も声をかけていたが見向きもされず、全くの無反応だったため、その人の近くに行こうとした。けれど、どうしてか一歩を踏み出すことを躊躇ってしまいその場から動けずにいた。
いったいどれだけの時間が過ぎたのだろう? 夢の中の私はただひたすら静かに時間が過ぎるのを待っていた。その人はいまだに私に背を向けたまま、一人黙々と原稿を書き進めている。
(退屈だな……)
夢の中の私が心の中でそう呟いたと同時に、その人は原稿を書き終わらせ、ようやく私の方を向いた。

小鳥のさえずりがやけに大きく聞こえ、そのまま起きてしまった私。思わず声に出して自分自身にツッコミを入れた。
「どうして、このタイミングで起きちゃうかな?」
それでも飽き足らず、今度は心の中でもう一度ツッコミを入れていた。
(本当に我ながら、起きるタイミングがおかしいでしょ? あーもう。あとちょっとで、顔がわかったのに……けど、あの人、本当に誰だったんだろう? 全くの知らない人なのかな? それとも知っている人だったのかな? もしかして……)
「圭介?」
思わず呟いていた私。すぐに、それはないかと思いなおす。
(いくら私が寂しいって言ったって、夢にまで出てくるなんてことはないだろうし。
それに、もし圭介なら……私の名前を呼んでくれるだろうし、夢の中の私に気付いて振り向いてくれるはず)
「いつまでも夢のことを気にしていてもしようがないけど、気になる……もう一度寝たら夢の続きが見れるかな?」
そんなことを思いながら、私はもう一度ベッドへ横になった。けれど、一度目を覚ましてしまったあとではすぐに眠りにつくことができず、ただひたすら時間だけが過ぎていった。
結局、一時間近くをベッド上で過ごしてしまった私は、眠ることを諦め、少し遅めの朝食を取ることにした。そして、今日これからの予定を考えていた。
(今日の講義は三限からか……ちょっと早めに大学に行って、課題を済ませよう。あとは、講義が終わってから買い物に行かないと。食料品もそうだけど、日用品もそろそろ買い足しておかないと。シャンプーとか今ある分がもうなくなりそう。で、明日は朝から一日バイトだから、早めに寝ないと……)
朝食と準備を済ませ、念入りに室内の戸締まりの確認をしてから、ようやく外へと向かった。
部屋の扉の施錠をしてから一度だけ、空を見上げる。天気は晴天。相変わらず太陽がまぶしく輝いている。
「いい天気」
そう言って、私は部屋の扉の前で両手を上にあげ、思いっきり伸びをする。
「はあ、すっとした。今日も一日頑張ろう」
そう自分に言い聞かせ、私は歩みだした。

物語と現実 【全12回】 公開日
(その1)物語と現実 2019年4月11日
(その2)物語と現実 2019年5月10日
(その3)物語と現実 2019年6月26日
(その4)物語と現実 2019年7月3日
(その5)物語と現実 2019年8月26日
(その6)物語と現実 2019年9月6日
(その7)物語と現実 2019年10月4日
(その8)物語と現実 2019年11月1日
(その9)物語と現実 2019年12月6日
(その10)物語と現実 2020年1月10日
(その11)物語と現実 2020年2月7日
(その12)物語と現実 2020年3月6日