大学の食堂で友達とランチをしていても、気になるのは夢のこと。なので、話を聞いてもらうことにした。
「ねえ、一つ聞いていい?」
「いいけど。どうしたの?」
私はここ最近、見ている夢について話しだした。
「……ということなんだけど、これって何か意味があるのかな?」
「うーん。単に疲れているだけじゃない? それか、ある種の警告みたいなもの? じゃないかなあ……」
「警告って?」
「例えばだけど、一人で外出するのを控えた方がいいって教えてくれているのかもしれないし、自分でも気付かないうちに無理をしていて、そろそろ無理せず休めって教えてくれているんじゃない? 変な夢を見るときってだいたい皆そんな感じだと思うけど」
「そうなのかな……」
「うん。だから、あんまり深く考え過ぎないでいいと思うけど。それでもまだ気になって、変な夢を見てしまうっていうのなら、一度心理学の教授にでも相談してみたら? 夢分析やカウンセリングをしてくれるかもしれないよ」
「ちょっと気になる程度だからカウンセリングまではいかないよ。そこまで重く受け止めてはいないから」
「わかってる。だから、無理に教授にカウンセリングを受けに行ってこい、なんて言ってないでしょ。そういう手段もあるよってことを伝えているだけだから」
「うん。ありがとう」
「どういたしまして。そろそろ行こっか。じゃないと次の講義に間に合わなくなるよ」
言われて食堂内にかかっている時計を見た。一二時五〇分になりかかっていた。
「本当だ。もう行かないと」
慌てて食堂をあとにする。講義室へ向かう最中、私は少しだけ気持ちが楽になっていた。
(やっぱり、話をしてよかったな。一人で考え込んでいたらろくなこと、思わなかっただろうし……話したことで少し気持ちが楽になった)
そう思いながら、私は友達のあとを追い走っていた。
今日の講義は四限で終わり。夕方だけれど、部屋に帰っても特にすることもないので久しぶりに書店によってみた。小説コーナーを歩きながら物色していると、ふと気付いた。
(そういえば、書店に来るのも久しぶりのような気がする。この前は確か城優さんの本を買ったんだっけ? 今日も探してみようかな)
書店内を歩き回ると、目当ての本があった。
私は、見つけた本を持って早速レジへと向かう。レジへと向かう途中にフリースペースでサイン会を開催していることに気がついた。
「あれ? サイン会なんて開いてたんだ……作家さん誰だろう?」
何気なしに覗いてみると、〝城優先生サイン会〟と書かれていた。
(えっ、城優サイン会? 嘘? 並んでみようかな?)
と、思ったものの並んでいる人の列を見たら、並ぶ気も失せてしまった。
(ちょっと、これいったい何人並んでるの? ざっと見ても五〇人ぐらい並んでそうなんだけど……並ぶのは諦めて、せめて作家さんの顔だけは見ておこうかしら)
そう思って、先頭の方に行ってみたけど人が多くてまともに顔を見ることなんてできそうにないし、係の人に止められそうなので帰ることにした。
「ここはどこ?」
私は今自分がどこにいるのか。そして、どうしてここにいるのか見当もつかない。ただわかるのは、周りが何もない真っ白な世界だということだけ。
(どうして? もしかして私、死んだの?)
一番恐ろしい考えが頭をよぎったそのとき……遠くの方から「薫~」と誰かが私を呼ぶ声が聞こえてきた。しばらく声が聞こえた方をじっと見つめてみたけど、誰の姿も見えなかった。
(気のせい? 今、確かに名前を呼ばれた気がしたけど……)
そう思っていたら、また「薫~」と声が聞こえてきた。もう一度、私は声が聞こえた方を見た……やっぱり誰もいなかった。
(でも、確かに「薫~」って呼ぶ声が聞こえたんだから、向こうに誰かがいるはず)
そう思った私は声がした方へ向かって歩きだした。
「誰? 誰かいるの? いるなら出てきなさい」
「薫」
と、私のすぐ後ろから聞こえてきた。とっさに振り向いた私は……呆然とした。
「圭……介」
と言うと、彼はニッと笑った
「えっ……あの、何で?」
わけがわからなかった。だって圭介は二年前に死んだはず。……なのになぜその彼が今、私の目の前にいるの?
(もしかして、私本当に死んだ? それで圭介が迎えに来てくれたの?)
と、またしても恐ろしい想像をしていたら圭介から声をかけられた。
「久しぶりだな」
「……本当に圭介なの?」
とにかく私は彼が本当に圭介なのか確認したくなった。もしかして別の人かもしれないし……目の前にいる彼が本当に圭介なら私はどうしたらいいんだろ?
「そうだよ。正真正銘、高木圭介だ」
「そんな、どうして?」
もしかしてこれは、夢? それとも幻? そう思った私は思いっきり自分の頬をつねってみた。
(痛い)
痛みがあるってことは夢でも幻でもなく、ましてや死んでもいないってことだけど……。
今目の前にいるのは正真正銘の高木圭介で、これは現実のことだとわかったけど、何をどう話したらいいのかわからない。会えて嬉しいと言えばいいのか、それとも急に亡くなったから驚いた、寂しかった、悲しかった、と言えばいいのか? どうして、もっと前に会いに来ず、今になって会いに来たのか?
いろんな感情が私の心の中に渦巻いていて、思うように言葉が発せられずにいた。
そんな私を見て、圭介は少し困った顔をしていた。
「薫。会いたかった」
「……私も」
返事をしたあと、圭介に抱きしめられた。
「圭介」
圭介と名前を呼び、私は圭介の腕の中で静かに涙を流していた。
しばらく私はそのまま圭介の腕の中で泣いていた。圭介は私を抱きしめながらも少し戸惑っている様子を見せた。
(クスッ)
その様子に気付いて私は思わず笑ってしまって、その拍子に涙も止まってしまった。ようやく笑顔を見せた私に
「薫、大丈夫か?」
圭介は心配顔で声をかけてくれた。
「うん。大丈夫。ありがとう」
私がそう返事をすると、圭介はホッと息をつきようやく安堵した表情を見せてくれた。
物語と現実 【全12回】 | 公開日 |
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(その2)物語と現実 | 2019年5月10日 |
(その3)物語と現実 | 2019年6月26日 |
(その4)物語と現実 | 2019年7月3日 |
(その5)物語と現実 | 2019年8月26日 |
(その6)物語と現実 | 2019年9月6日 |
(その7)物語と現実 | 2019年10月4日 |
(その8)物語と現実 | 2019年11月1日 |
(その9)物語と現実 | 2019年12月6日 |
(その10)物語と現実 | 2020年1月10日 |
(その11)物語と現実 | 2020年2月7日 |
(その12)物語と現実 | 2020年3月6日 |