作家・成海隼人が「尼崎ストロベリー」を幻冬舎から発売。
幻冬舎ルネッサンス新社では、これを記念して月亭方正と成海隼人の対談を企画した。方正と成海は大阪で活動している落語家と落語作家という関係。対談の現場で顔を合わせた2人は、「尼崎ストロベリー」を中心とするさまざまな話題に花を咲かせた。
インタビュー・文 / 佐藤・尾崎(幻冬舎ルネッサンス新社)
撮影 / 松野友紀
一方的に渡した落語台本
-方正さんと成海さんとのご関係を教えていただければと思います。
方正落語に出会ってから、僕は、七年前に東京から大阪に戻ってきて、比較的小規模な会場で落語会をやっていたんです。ある日、当時の成海が僕のところにやってきて、僕の書籍の「落語家になった理由」という本を持ってきて「ファンです、サインしてください」と言ってきたんですね。で、「僕、落語を書いてるんです。是非読んでみてください」と言ってきて。
成海はい、僕、一方的に落語台本をお渡しさせてもらって。
方正そういう子って結構いてるんで、その時は読まずにいたんです。でも、それが何回も来るんですよ、彼は。何回も来てくれてて、熱心な子やなぁとは思いました。で、送ってくれていた台本を、ちょっと読まなあかんかなって思って。内容は忘れてしまったんですけど、まぁまぁ、しっかりしてんなぁ、と思いました。ただ、やっぱり40歳から落語させてもらって、創作落語は絶対一人で創った方がいいと志の輔師匠からもアドバイスを受けていたこともあって、人が創った作品をやるという選択肢はなかったんですね、僕は。古典を中心に自分発信でやる、ってことに決めてましたんで。
成海一方的にネタをお渡ししてから、少し経って、方正さんからメールを頂いたんですよ。
方正メールしたな。
成海その時に初めてもらったメールをプリントアウトしてずっと保管してるんです。嬉しかったんで。丁寧な長文のメールを頂きました。そのメールには、今、方正さんがおっしゃったように、自分はこの新作落語はできません。この作品をボツにするのはもったいないので、落語台本の賞レースに出したりしたらどうでしょう?など、ご丁寧にアドバイスまで頂いて。で、僕、それなら「落語会を手伝わせてください!」と言ったんです。それで落語会を手伝いに行かせてもうたんですよ。初めて行ったのが道頓堀のZAZAの落語会でした。
方正あ、そうそう。思い出した(笑)
成海思い出してくれはりました?(笑)
方正そうそう、当時の僕は、一人で落語の全国武者修行にまわるとか、いろいろ全部自分でやってたから、スタッフとして手伝ってくれってなって、彼とグッと近づくことになるんですよ。伊勢の落語会とか行ったもんな?
成海伊勢行きましたね! めっちゃ懐かしいです。
方正僕ってね、なかなか心開かないんですよ。ほんま、心開くまで2年くらいかかるんですよ。これまでの人生で、色々な人間を見てきてるんで。僕のことを利用しようとしてるんやなぁとか、僕のことをアクセサリーにしようとする人とか、たくさんいてますので、それを見極めるのに2年くらいかかってしまうんです。
成海についても、1年半くらいかかったと思いますね。彼と付き合いが始まって、まぁ、僕を利用しようとか、まぁ、それは正直あるやろうけど、でも、それは悪い利用じゃなくて、相乗効果というか、同じように高めていきたいっていう感じやなっていうことが、僕はある時、わかったんですよ。それは僕自身も他人にしてることやから、ただただ、その人を利用するんじゃなくて、僕もこうしますから、こうしてくれませんかと言うような、ある種win-winという形ですね。彼はちょっと信用できるかなぁって思って。そっからですね。
成海方正さんと出会って間もない頃に、大阪の箕面にある居酒屋に、連れて行って頂いたんですよ。
方正ちょうどね、彼の仕事場と僕の住んでるところが、めっちゃ近くやったんです。僕も大阪きて、別に誰もおらへんし。飲みに行きましたね。
成海ほんま偶然でした。
-一般的にこうやって、成海さんのような形で、作家が落語家さんに台本を持って行って、この世界に入っていくっていうのは普通のことなんですか?
方正いやいや、普通じゃないですよ。
成海はい、ありえないパターンやと思います。
方正うーん、彼の熱があったんじゃないですかね?やりたいっていう熱が。僕の想像ですけど、彼が吉本の養成所の作家コースに入って、何かできるかなぁって思ったら、別に何もできずに、あ、これ、どういう風にしたら自分は作家として独り立ちしていけんねやろ、みたいなことをずっと模索していたんでしょう。その時に、僕の落語なのか書籍なのかをみたんですかね、彼は。それで何か腑に落ちたところがあったのでしょうかね。
成海いや、ほんまにありえないです。同期の子ら、みんなビックリしてます。
方正さんとこうやって、一緒にやらせてもらってること自体が、奇跡的なことです。それは吉本の社員さんにも言われますし。有難いなぁっていつも思っています。
方正何で俺やったん? 来ようっていう初めの動機って何なん?
成海方正さんが月亭一門に入門して落語家になる、ってニュースが流れたんです。
方正流れたな。
成海その時にちょうど、ユーチューブで方正さんの「猫の茶碗」というネタを観たんですよ。で、落語見て、あぁ落語ってこんなにオモロイんやと思って、そこから方正さんの落語会に行くようになって。で、方正さんの落語を書いてみたいなって思って。今見たら、恥ずかしいようなネタなんですけど、当時、自分なりにオモロイって思った自信作を送ったんです。
方正なんやったかなぁ。何作かもらったんですけどね、うーん、どんなんやったっけ?
成海タイトルが「電算ドクター」っていうんですけど、医者が診療の時にインターネットの検索に頼りすぎて失敗してしまう、って落語なんですけど。
方正覚えてないわ(笑)
成海マジですか?(笑)
方正全く、覚えてない(笑)
成海あれ?(笑)当時、めちゃめちゃ、オモロイって言うて頂いたと僕は記憶してるんですけど(笑)僕ね、自分が書いたネタを、方正さんがオモロイって言って頂いた事が、嬉しくて、嬉しくて。方正さんに、ネタ書いて送りまくっていた時代がありましたね。今、考えたら、多分、めっちゃ迷惑やったと思います。
夢と希望を語るとき、時の経つのを忘れます
-続いての質問なんですけど、今回刊行されました「尼崎ストロベリー」なんですけども、こちらの刊行のきっかけになったのは、方正さんのお言葉であったとか。
方正今も続けてるのか知らないですけど、成海は朝5時くらいに起きて、毎日小説書いてますって、僕に言うんですよ。それってね、やっぱり僕は凄いことやと思うんですよ。修行みたいなもんですよね。そういう努力は絶対無駄にしたらあかんし、もうそれだけやってるんやったら、もちろん作品もあるやろうし、まず賞獲らんと、作家って食っていかれへんで、って言うてたんです。テレビ作家とかなら、別に小説を書かなくても食べていけるんですよ。番組に入りさえすれば。でも、こういうモノを書く、作家さんというのは、やっぱり売れてなんぼの世界やから、小さい賞でも何でもいいから、賞を獲らないと絶対無理やで。名前売れへんで。別に、月亭方正の傍についてても関係ないでって言ってたんですね。それは、彼も重々わかってて。で、彼は自分の作品を色々な賞レースに出すわけですよ。
成海賞レースの選考を突破するたびに、方正さんに報告してましたね。
方正「一次選考、突破しました・・・落選しました」「二次選考、突破しました。次、準決勝戦なんです!・・・落選しました。」そんな繰り返しを僕はずっと聞いてて。でも、彼はへこたれないで頑張ってて。そんな彼に僕は自分の体験をアドバイスしたんですよ。15年くらい前に、僕、「奇跡」という写真集を出したんですよ。色々な出版社から「なんでお前の写真集出さないとあかんねん」って感じになって、自費出版でやるって言ってたんですよ、僕。結局、お金は、吉本興業が出してくれましたけどね、黒字にもなりましたから良かったんですけど。だから、そんなやり方もあるで、って。ほんまに出版したいんやったら、自費出版したらええやん。そのへんの印刷工場行ったら、是非やらせてくれ、ってなるし、本になるでって。やってみたらええやん。今の時代ね、自分でできるじゃないですか?今の時代は何でも。僕らの時代は、例えば、売れるためには、みんなに顔をわかってもらうために、テレビやラジオとか、メディアしかなかったんですよ。今はインターネットなんかが発達してるから、一人でもできるじゃないですか。ユーチューブでも、何万回数とか再生されて、皆んなに伝わっている。それをまたテレビが取り上げるっていう流れですよね。とりあえず、動かな始まらへんで、って言ったんです。そうしたらね。彼、動いたんですよ。
成海はい、出版社に片っ端から電話しましたし、直接直談判にも行きました。
方正正直ね。幻冬舎さんを引っ張ってくるとは思ってなかったです。「え? 幻冬舎? マジで?」ってなったもんな?
成海はい、そうですね。居酒屋で、方正さんに発表させて頂きました。「方正さん! 僕、やります! 幻冬舎から小説を発売します!」って。その時に方正さんが幻冬舎の本を読んではったことを初めて聞いて。
方正乃南アサさんとか、一時期ハマって。幻冬舎さんって結構、硬派やし好きで。え? 幻冬舎って、あの幻冬舎か!? マジか? ってなって。はい、幻冬舎さんが発売してくれるみたいで。もちろん、持ち出しはありますけどもって彼、言ってね。幻冬舎さんの看板借りるんやったら、そりゃ、当たり前やろ。幻冬舎さんも大きな看板や。これまでの築いてきたブランドがあるから、下手な本を出版できないはずやと。
-おっしゃる通りですね。
方正書店に流通されるレベルに商品化されるまで、手直し作業とか色々と大変やろうけど頑張れ、とかね、色々話してたんですよ。千里山の八剣伝で。
-八剣伝!? 居酒屋の八剣伝ですか?(一同爆笑)
成海そうです、マルシェグループの八剣伝です(笑)
方正あそこのお店は、普通のチェーン店じゃないねんな。めっちゃ美味いんですよ。全然違うの。
成海日本料理屋さんで修行を積んだ店長の料理なんですよ。
方正そうそう。その八剣伝で、成海の小説の話してる時に、ちょうど、後ろに掛け軸があってね。そこに、ええ言葉があって。
成海本当に、たまたまなんですけど。今日は、あの掛け軸の写真をプリントアウトしてきました。これです。この掛け軸をバックにして、「僕、幻冬舎から小説出します!」って方正さんに発表したんですよ。
-ドラマチックなエピソードですね。
成海『夢と希望を語るとき、時の経つのを忘れます』という言葉です。
方正時間がすぐに過ぎるっていうことは、「夢中」ということですよね?彼はずっと夢中で。夢の中に、彼が主人公としているってことやから。夢中。夢の中に彼はいるんだなぁって思って、僕は彼を羨ましかったんですよ、ある意味。本当にしんどい挑戦やと思うし、大変やろうけど、夢中になってる彼が、すごく羨ましくて、あ、これがほんまに掛け軸の言葉そのままやなって。そういう夢に向かっての挑戦の話を聞いていると、僕たちも一緒やから、結局。僕も落語にずっと挑戦して、今、なんとかお客さんに来てもらえるようになったけど、初めはもうね、厳しい時もあってね。なんかね、清々しいんですよ。そういう話を聞いていると。清々しい気持ちになって。
小説・尼崎ストロベリー
-この流れでご質問させて頂きたいんですけども、「尼崎ストロベリー」を最初に購入されたのは方正さんで、成海さんが一番最初にサインをされたのは、方正さんということですが?
成海はい、一番初めに方正さんにお渡ししたいって思ってたんで。手元に本がきたとき、一番に持って行きました。お渡しさせて頂いた時に、サインくれって言ってくださって、僕、サイン考えてなかったんですよ。「お前、考えてないんかい! あかんで!」って言われて。フツーに楷書体で成海隼人って書かせて頂きました(笑)
-方正さん、作品のご感想をお聞かせ頂けますか?
方正物語の途中のオカンと本音で語り合うところくらいから、僕の本を読むスピードが、ガッと早くなりましたね。そのスピード感と、あと、この想像させる文章。単純にやっぱり楽しかったんでしょうね。
成海ありがとうございます。
方正ド頭はねえ、あの、そっか、こういうことなぁ、そっかそっか、こういうことね。まぁ、ストーリーもなんとなくわかるし、オカンががんになって最期を迎える時、息子はどうするのか、という感じみたいな。ド頭から、ずっとこういう感じかぁ、そうなるわなぁって思っていたのが、ほんま途中からですね、「おぉぉ!」と思いましたね。凄く想像しやすかったです。
-小説としては、理想的な展開ですよね。私も読んでそう思いました。
方正彼からね、ちょっと相談を受けたのは、小説の中に漫才台本があるんですよ、と。それがねぇ・・・サブくなったら嫌なんですよねぇ、って言ってました。でもね、それは劇中劇の漫才のネタやから、全くそんなサブくはなってなかったですね。
成海それは、安心しました。
方正やっぱり劇中劇の中のネタやからな。あれが、M -1とかやったら、また全然ちゃうけどな(笑)
成海そうですね(笑)
方正文章読んでいて、やっぱり絵が浮かぶところがいいですね。
成海めっちゃ嬉しいです。
方正小説ってやっぱり面白いのはね、落語もそうなんですけど、絵が浮かぶところですよね? でも、容易に想像させるのは作家の腕やから。
成海いや、ほんま嬉しいです。方正さんから感想を直接聞かせて頂くのも初めてなので、嬉しさしかないです。
-「尼崎ストロベリー」で内容的にこだわられた部分は漫才の部分ですか?
成海そうですね。まぁ、お笑いが好きなんですよね。だから、吉本の養成所に入ったっていうのがあって、初めて小説を出すってことになって、何作品か候補はあったんですけど、やっぱり、一番初めの作品は「笑い」を題材にしたいと思ったんです。で、実体験を交えながら書きましたね。
武器を持ち、いばらの道を進め
-続いての質問なんですけど、成海さんから見て、方正さんというのはどのような方なんですか?
成海すごいストイックです。ほんまにストイックな方やなって、僕、思っててそこで、かなり影響を受けてます。落語の稽古にしてもそうですし、ネタ作りにしてもそうやし、傍でいさせて頂いて、方正さんくらいビッグな方やのに、そこまで努力されるんやなって、すごいなって思ってます。一回、方正さんに、和歌山のお城の天守閣に泊まれるっていうホテルに連れて行ってもらったことがあるんですよ。
方正ああ、行ったなぁ。
成海はい。ネタ作りのために一泊で行こうって言って頂いて、ホテルもとって頂いて、二人で行ったんですよ。で、部屋でずっとパソコンを開げて、ずっとネタを作ってたんですけど、旅館のご飯食べるじゃないですか。その時も、普通、お酒とか飲むと思うんですけど、お酒も一滴も飲まれないんです。温泉入った後も一滴も飲まれないし、温泉戻ってきてからも、パソコンを広げて、ネタ作りに集中です。なんかあの時、ほんますごいな。この人、ストイックやなって思ったんです。
方正まぁ、モードになってる時はね、それができるんですけど。でも自己分析すると、「あれ? 俺ってこんな真面目やったんや?」って思いますね。知らなかったです。落語やるまで、自分がこんな真面目って。不真面目にずっと生きてきましたから。核が真面目なんでしょうね。
-逆に方正さんから見て、成海さんはどのような方か教えていただけますか?
方正彼とね、付き合って何ヶ月後かなぁ。この業界で、生きる術というかね、大事なことを伝えました。それは何と言うかな、自分以外の何かを頼っていくだけでは絶対あかんで。他人の力を頼っているだけではあかん。そういう事が通用するのは初めだけやでと。結局、自分自身が何かをやっていかへんかったら、通用せえへん世界やでって。彼はね、その当時、それを言ってあげないとあかん子だったんだと思います、初めの頃はね。
成海はい、覚えています。
方正でもね、僕が彼を信用していったのは、そこで、「はい、はい」って言って素直に聞くんです。彼はそれから、自分の無駄なものを全部捨てていきましたね。なんか、そういう無駄なものを。なぁ?
成海あの時に頂いた方正さんの言葉が腑に落ちましたので、一からやろうと思ったんです。
方正しばらくして、毎朝5時に起きて、小説書いてる、と。あれはね、僕は感動しました。「マジか!? お前!?」って。でもね、それぐらいせえへんかったら、次の段階に絶対行かれへんから。僕もそうなんですけど、やっぱり周りの人に助けてもらって、ずっといってても、どっかで頭打ちになって、その頭打った時に、自分の武器見たら、「アレっ? 何も無いやん? 俺?」みたいな。少し話は逸れますが、グラドルの枕営業とか、って言うのはそういうことですからね。何かを頼ろうとするからそこに、隙間ができて、その隙間に悪い奴らが入ってくる。なんか、この世界で生きる術を、初めに伝えた事を凄い記憶しています。その言葉が彼の琴線に触れてくれたみたいですけど。
成海嬉しいです。あの時のこと、覚えてくれてはって。いばらの道やぞ。この世界は、いばらの道やぞって言われました。それでもやるんか、お前は? 挑戦するんか?って言うてくれはりましたね。
方正彼は、その時は素人でしたね、素人。こうなって、多分プロになっていくんやと思います。なんか色々な足跡を辿って、武器を身につけて、プロになっていくんやと思います。あと、彼を一言で言うと、素直ですよね。一言で言うと素直。僕は、一番伸びる人間って素直な人やと思ってるんで、芸でもそうやし、人間の成長もうそうやし、成長する人間って素直な方が多いですよ、本当に。この前、かまいたちの山内とテレビの番組で一緒やった時に思ったんですけど、やっぱり彼って、素直ですもん。だから、どんどんどんどん面白くなるんですよ。でも、なかなかいないもんなんですよ、素直な人間が。一コ返したらアホになってしまうからね、素直というのは。表裏一体なんですよ。素直というのは。本当に表裏一体ですごく微妙なライン。
成海方正さんが教えてくれることは、僕にはすっと入るから、素直に聞ける部分もあるんやと思うんですよ。方正さんは、ほんまに有名人で、初めはすっごいそれが大きかったんですけど、だんだん、僕は有名人というカテゴリーから、人間としての生き方を教えてくれる人生の先輩というのに変わっていきましたね。そういう意味で、すごい影響を受けてます。
一生懸命に生きる
-方正さんから、具体的にどのような影響を受けたのですか?
成海方正さんから色々なことを教えてもらっているんですけど、僕が一番胸に響いたのは、「一生懸命に生きる」ってことなんですよ。今までの人生で、いつに戻りたいかって言った時に、結構、中学時代っていう人が多いじゃないですか?それって、何でも全力で一生懸命にやってたからなんですって。恋愛するのも初めてで一生懸命、勉強して学ぶ事も新鮮で一生懸命、部活に打ち込むのも一生懸命。何でも全力で一生懸命やってたから、あの時代がキラキラしているんやって、僕、方正さんから教えてもらったんです。何歳になっても「一生懸命生きる」って大事なんやなって、めちゃめちゃ思ったんですよ。その考え方に感動しました。で、この世界で挑戦するって決めて、武器がいるぞ!っていうのも教えていただいて、僕は「小説」に辿り着いたんです。どうせやるなら、一生懸命やろ!って思って、時間もないから、朝5時に起きて小説を書くというライフスタイルを選択したって感じなんです。
方正いや、これは大事なことなんですよ。これね、僕の書籍にも書いてるし、いろんな講演でも話してるんですけど、やっぱり、嘘をつかない事と、一生懸命やるっていうのは、まわりも信用していくし、自分も自分のこと信用していくし。でもね、大人になったら、なかなか一生懸命できないんですよ。やっぱり怖いから。中学時代は結果が怖くないから、一生懸命できます。でも大人になって一生懸命やったのに、業績が伸びなかったら、そんな怖いことないでしょ? だから、皆ね、そこまで一生懸命になれないんですよ。僕もそうやったのですが、僕は落語に出会えたんです。一生懸命やれる落語を見つける事ができた僕は幸せです。
-なるほど。
方正書籍「落語は素晴らしい」を出版した時にね、成海に色々と手伝ってもらったんですが、色々彼と話をするんですよ。そこはね、彼にとって濃かったと思いますよ。なんか、こう、何でもいいんですが、ちょっと、俺、薄毛になってきたけど、この薄毛はどうや?とかいう、どうでもいい話から、話していくんです。僕の思ってることを。薄毛は見た目が厳しいかもやけど、例えば自分が一番見えへんところやからええんとちゃうんか、とか(笑)なんかそういう話をしていくうちに、そうか、俺、こんな事を考えてるんか、って自分を俯瞰で見れたり、こういう風に人に言ったら伝わりやすいかぁ、とかね。で、成海は成海でインタビューして、うんうん、と聞いてくれてたんですけど、おそらく濃い時間を過ごしたと思いますよ。方正はこういう風な考え方をしてるんやぁ、とかね。
成海書籍の中に、さっき僕が言った一生懸命っていうテーマも入っていて、僕、テープ起こししながら、もう何回も聴くわけですよ。だから、方正さんの「落語は素晴らしい」はとても思い入れの深い作品なんです。
落語の魅力とは
-続いてのご質問なんですが、方正さんは落語家に転身されて、落語家として活動されてます。成海さんは、上方落語台本大賞を受賞されたり、落語作家としてご活躍されてますが、そのお二人からですね、改めて、落語の魅力をお聞かせ願えますか?
方正あのね、落語はね、本当に魅力がいっぱいあるんですよ。落語の本編には嘘がないですよね。すごく真っ当なことを言っているんですよ、落語って。子どもはかわいいな。女性は優しいな。女性はズルいな。男ってカッコよくないとダメやなとか。もう皆が分かりきってる、でも、人間として大事なものを、ネタで面白くストーリーにして伝えてるんです。新渡戸稲造さんがヨーロッパにおられる時に、日本の道徳心って何や?って言われたらしいです。日本の共通の道徳心、日本人の共通の道徳心はないのか?海外では精神的な規範や道徳は、キリスト教や仏教、イスラム教などの宗教に基づいています。そういう規範は日本人にはないのか?仏教はあるけども、皆が皆、仏教ではないし、統一の道徳観というものがない。これはつくらなあかんということで、新渡戸稲造さんが武士道という日本人のこれが基盤や、っていう道徳心を作られた。新渡戸稲造さんの武士道。僕、何回もチャレンジしてるんですけど、あれ、やっぱり厳しすぎて。サムライ、武士は心が痛いんですよ。その点、落語は優しくて。そして落語には日本人の道徳心も入っていると思うんですよ。この時はこうした方がいいよ、とか。この場面ではこうすべきだよ、というのが落語には面白おかしく入ってて。例えば、よし禁酒をしようとなるとしますよね。断つんだ、酒を。一週間。二日目に、飲んでしまった、、、ってなるでしょ?武士道やったら、「貴様、来い!」って言われて、それこそ、罰を受けますよね。僕の中でね、落語だったらね。二日目に、飲んでしまった、、、「まぁ、しゃーないな。しゃーないよな。じゃあ、また、やろうや。禁酒の誓い立ててやろうや」っていうのが落語なんです。それをね、面白おかしく、教えてくれるという事が落語の魅力じゃないですかね。
成海ネタ的なオモロさ、いつの時代でもオモロイ、普遍的な笑い、っていうのが、僕は落語やと思います。それで、ネタが面白いというのはもちろんそうなんですけど、僕は、生で会場でみる落語って、めっちゃオモロくて。噺家さんも、観客もスタッフも、一つになる瞬間があるんですよ、意識が。何やろな、何なんですかね、あれは?意識が一個になる瞬間があって。それはめちゃくちゃ醍醐味やし。話に入っていくとね、噺家さんが子どもに見えたり、おじいちゃんに見えたりするんですよ。雪が降ってたりもします。僕はそれが想像の芸の極みなんやろなって思ってます。それが僕が一番落語がオモロイなって思うところですよね。
方正不親切な芸ではあるんですよ。コントやったら学生服着てるし、漫才やったらここで笑うところですよ!っていうツッコミがいたり。落語というのは、すごく不親切な芸で、「色白のな、ぽちゃぽちゃっとしたここにホクロのある、えらい色っぽい女がおるねんや」しか言わないですよ。そしたら、皆さんは「色白で、ぽちゃぽちゃっとした、ここにホクロのある、えらい色っぽい女」というのが、ふっと皆さんの頭の中に描かれるという楽しさですよね。だから、自分の人生経験というのがすごく大切で、その中のプロファイリングで、パパッと、あ、あんな感じか、色白でぽちゃぽちゃっというのは。そこの想像の楽しさに気づくとね、他の芸能より、ヤバイくらい落語にはまりますよ。だって、言葉だけしか、くれへんわけやから。逆にいうと、自分の中で面白いように全部描けるから。
成海僕なんかが落語を語って申し訳ないんですけど、ほんま僕、全然知らんかったんですよ、落語。だから片っ端から聴きました。枝雀師匠聴いて、米朝師匠聴いて、志の輔師匠聴いて。一緒のネタやねんけど、演じる人によって、全然違うくて、それがまた面白いんですよ。ネタに人柄が滲み出ていて。
方正小説も落語も一緒でね、想像させる芸能なんですよ。だからこそ、本も楽しいですよね。僕が一時期、ずっと本を読んでいたのも、やっぱり、そこの楽しさやったと思うんですよ。
-落語はやっぱり直接見た方がいいですか?
方正今いくつですか?
-僕は27歳です。
方正27歳かぁ。僕ね、ほんまにね、落語はね、強制しないの。本当に強制しない。強制されてみても絶対無理やから。落語を強制はしないんだけど、なんか触れててもいいとは思う。お笑いのわかりやすいのが漫才とかコント。落語ってちょっとわかりにくいって、皆、言いますよね。それなんでかって言うたら、やっぱり、自分が想像する頭がないとダメやし、人生の経験がないとダメで。例えば、子別れと言うネタがあるんですけど、子は鎹、子どもというのは夫婦を繋ぎ止める鎹みたいなもんやっていう話があるんですけど、例えば、27歳くらいの子ばっかりのお客さんの落語会では、僕は、絶対しないんですよ。それ、なんでかっていうと、多分、子どもおらんやろうなって。子どもがおらん人たちに、やっても感動するかもわからんけど、やっぱり子どもがいる人は感動の量が違うから。それって経験なんですよね。人生経験なんですよ。
-色々経験を積んでからですね。
方正落語は70歳なっても、80歳になっても楽しめるから。逆に焦らんでいいと思いますね。
-方正さんの落語会は、常連の方が多いんですかね?
方正大阪で定期的にやってる落語会や、僕の独演会というのは、そうですね。だから濃い落語をガッツリとできるんですけど、地方に行って月亭方正がやるっていうたら、落語初心者も結構多いです。いつも2席やるんですけど、一席目は本当にわかりやすいネタ。もう一席はグッとしめたネタをやる事が多いです。
創作落語を合作する
-方正さんと成海さんで、合作として創作落語をつくられているらしいですが、その創作の過程や創作の裏側をお聞かせ願えれば。
方正例えば、今、天ぷら屋を題材にした創作落語を二人で創っているんですが、まず僕がこんなんがしたいねんって成海に言うんです。んで、成海が僕の傍で、ずっと聞いてくれてるわけですよ。天ぷら屋のこれがこうなってな、ここがこうなって、こうなって、こうなって、っていう、あらすじですね。彼をすごく信用しているのは、僕がバーっと成海に伝えた時に、頭の中で描いてるよなって事なんです。細かいところまであんまり言わないですが、僕が思うような、このここで、こうなってな、こうなるねんけどって伝えてる時に、 僕とおんなじ絵を頭に描いてくれてるやろうなっていう信頼をしています。この天ぷら屋を題材にした人情噺なんですが、今年にどこか大きめの会場でやれたらなぁと考えていますね。このネタでね、成海がね、一個ものすごい腑に落ちたアイデアを持ってきてくれたんですよ。
成海あの下りですね。
方正そうそう。これは、もうね、「うわー! それそれそれそれ! みたいな」感じで。ということはね、結局、僕と同じ絵が彼の頭の中に浮かんでいるっていう事なんですよ。彼の頭の中にね。それはすごい助かるし、時間のかかる作業をやってくれてます。ブッチャけた話、僕がやったらいいんですけどね。時間かけて苦しんで、やったらええねんけど、古典覚えなあかんし、テレビの仕事やらなあかんし、と僕、パンパンなんですよ。成海がそれをやってくれることで、なんていうかな、僕の思ってるヤツが、カタチになっていってるから、それは凄くありがたくて。
成海こちらこそ、有難いですよ。
方正源平合戦の平家物語にある一つの物語を恋物語にして膨らませて落語にした「義仲と巴」という作品は、成海がセリフを起こしてくれました。セリフに起こして物語にするのも、なかなか時間がかかる作業です。でもそれをカタチにしてくれるんです、まず。その有り難さって言ったらないですよ。だから、そのネタをやる時に、成海の名前も出して、合作って表記しているんです。皆、書かないんですね、普通それは。でも、それは僕は気持ちが悪いから。僕の作品って思われたら、嫌やから。二人の作品であるからね。それは合作として書くんです。でもそれも始めだけにしようと思ってます。やっぱ、見た目が格好悪いんですよね。ネタがあって合作とイチイチ書いてあるのが。やから初めの方だけ、これは二人のもんやでって証という意味で、合作として出してます。落語作家の小佐田先生にも言われたんですよね。ネタが有名になる方が作家として嬉しいからって。
成海合作として、名前を出して頂けるのが本当に有難いです。いや、方正さんの、「こんなんしたいねん」っていうアイデアがもう、すでに、めっちゃオモロイんですよ。骨格がちゃんとしてますので、僕は肉付けするようなイメージなんです。でも、実際、肉付けして、台本を送らせてもらう時に、実は、めちゃめちゃ緊張するんですよ(笑)いや、これでええんかなぁ。いや、もっと違う角度あるんちゃうかな。もっと違うアクセスの仕方あるんちゃうかな、とか思い出して、いったん送るのやめて、もう一回見返すっていうのは、正直、何回もあります(笑)
(一同爆笑)
成海やっぱり、方正さんにネタ送るって、めっちゃハードル高いことですし、それはすごいプレッシャー感じますね。
方正あの天ぷら屋の作品は、本当にいいのを一個もらった。アレが肝になるくらい、いいのかなぁっていうくらいのね、合点が行くというかね。腑に落ちたというか、スコンって入れてくれましたよ、成海が。
-一つの作品を合作でお作りされる時はどれくらいかかるんですか?
方正まず僕が骨子を伝えて、彼が「わかりました」って言って、何週間かかけて作ってくれるでしょ?ほんで、もうワンターンするくらいかな? ほんでね、結局、やっぱり覚えてやって、削いで付け足してっていう作業は表現者の僕しかできないんですよ。これ現実的に言わへんわ、とか出てくるんですよ。あっ、これ現実やったらこういう風になっていくわ、とか。骨組みは僕が作り、彼が肉付けをしてくれる。それを筋トレさせるのが僕みたいな(笑)
成海筋トレ! わかりやすいですね(笑)
-なるほど。
成海ほんまに素晴らしい作品なんですよ。オモロいって言ったらあれですけど、すごいいい話なんで。
-是非行かせて頂きます。
方正是非是非。僕の落語は初心者にもわかりやすいと思うので。
どんどん書いてゆけ!
-最後の質問ですが、今後の目標であったり展望というのを教えて頂きたいです。
方正僕は僕で展望はあるんですけどね。僕ね、成海に対して、凄く思う事があるんです。それは、どんどんどんどん書け! っていう事ですよね。せっかく、これだけの書ける才能があるんやから、どんどんどんどん書いていけ! と思いますね。僕自身の経験でね、落語を初めた時は、一ヶ月に一本ネタおろししてたんですよ。ずーっと。
成海一ヶ月に一本は相当ヤバイですね!
方正せやねん。しんどいねん。しんどいんやけど、ゾーンに入ってたというか、楽しくてしょうがないし、もう次が嫌やねんけど、やらなあかん!というか、ワーッと熱があってね。成海はね、今、凄く熱があると思うんですよ。だって、彼の考えた物語が製本されて、幻冬舎から発売されて、しかも読者の皆さんに「面白かった、感動した」って言われてたらね。もう今ね、恍惚感が凄いと思うねん(笑)
成海はい。もう恍惚感がものすごいです(笑)
(一同爆笑)
方正尼崎ストロベリーがめちゃめちゃ売れた方が絶対いいねんけど。売れたらね、お金が入ってきたりとか、色々、余裕が出てきたりして、ちょっとね、フニャってなる時がどうしてもあると思うねんけどね。まぁ、それもそうなった方がいいねんけどね。今はとりあえず、その熱のまま、ガンガンやるっていう、なんか、それをやって欲しいなって思いますね。
成海ありがとうございます。
方正今、何作あるんかわからないけど、幻冬舎さんも商売なんでね。黒字にならへんかったらでけへんやろうし、でも、それがうまく回っていったら、「あ、成海先生、またお願いします」とか、そういう風になっていくわけやから。
成海いや、そうなれば嬉しいです。今回、幻冬舎さんから「尼崎ストロベリー」を発売させて頂いて、予想以上に、「良かった、面白かった、感動した」って言って頂いて、ほんまに、方正さんおっしゃったように恍惚状態で、もう嬉しいなぁ、有難いなぁって。僕の頭の中で考えたもんが本になって、紀伊国屋とかの書店に並んで買ってもらって、面白かった、ありがとうって言ってもらえる日がくるなんて、こんなハッピーな事ないなって思います。やっぱり、次回作を出したいなっていうのはありますし、「尼崎ストロベリー」についても、もっとたくさんの方に読んで頂きたいですし、映像化したい!とか夢を僕、口にして言うてるんですけど、そうなればいいなって、もっと広がっていったら嬉しいなって思っています。何作品かストックあるんですけど、それも世に出したいなって思いますし、それが目標っていうか。もちろん、新作にも挑戦していきたいですし。
方正せっかく、これだけ書ける才能があるねんやから、書かんと損やしな。あのね、報われるんですよね。ほんまに報われるんです。ほんまに、やった人しかわからへん報われってあるんです。その報われが、何コ人生にあるか、っていうのが嬉しさでもあるし、そこが多分、成長のポイントじゃないかな。
-今後の目標は、映像化というところですね。色々見据えて。
成海はい。もちろん。もっと皆さんに作品を知って頂きたいので。
方正「尼崎ストロベリー」を読んで、成海隼人は、次にどんなん書くんやろ?って、もうすでに思わしてくれてるから、それは凄くいいことだと思います。応援団なんかができたらええね。
成海先日、放送作家の宮内見さんに飲みに連れて行ってもらって、方正さんと同じことおっしゃってて。小説家は二作目、三作目を書き続けないとあかんと。やっぱり小説出したら、前の作品どんなん書いてはるんやろ?って絶対なるからな、小説は。って言われて、方正さんと一緒のアドバイスやなって思って聞いてたんですけど。それ聞いて、余計に二作目も書きたいなと。
方正彼も刺激になると思うで。頑張ろうって。
成海お互い小説を頑張って書きましょう、って盛り上がりました!(笑)
方正今の時代さ、なんやいうたら、名刺に「作家」って書いてるやん。でも、僕は、やっぱり小説を書く人はすごいと思ってる。尊敬してる。
成海ありがとうございます。
方正欲があるのよね、やっぱり。そういう才能ある人は。放送作家の高須さんでも最近、「おわりもん」っていう小説出されたんやけど、あの人はテレビをずっとやってきて、今、一流の放送作家として、大活躍されてるけど、どっかで作家としての欲が出るんだろうね。
成海あの高須さんでも表現したくなるんですね。
方正表現したいし、矜持やと思うわ。放送作家じゃなくて、「作家」というところ。「作家」はやっぱり小説を出さないとなぁ。
成海あんな、雲の上の超一流の人でもそうなんですかね。
方正そりゃ、放送作家としては超一流。でも「作家」と言われれば、「放送作家」の高須さんってなるから、僕らは。でも、あの歳になってな、小説に挑戦しようとするのが、また清々しいやん。松本さんも然りやで。映画もそうやし、いつまでも挑戦されることが、やっぱり、僕らはとてもたまらんよね。今はある種、創作をやめてはるけど、絶対しはると思う、あの人。これから先。
成海いや、なんか今日は方正さんにパワー頂きました。対談っていうてるのに。
方正ところで、あの八剣伝の掛け軸の言葉、誰が書いたんやろな?
成海また、店長に聞いてみましょうかね?
方正落款が押してあるけど。誰が書いたんかなぁ。
成海誰かの言葉なんですかね?
方正これ、誰かの言葉なんかなぁ。「お前が、小説出します!」って言った時、たまたま、掲げられてた言葉やからな。
成海はい、僕の思い出の言葉です。
方正この画像、LINEで送っててや。
成海はい、後で送ります。
方正いや、俺もこれ今日、調べてこようと思っててん。
成海そうですか! ありがとうございます。この画像、あの日に撮影した画像なんですよ。方正さんが小説出すこと、喜んでくれたんがめっちゃ嬉しくて。
方正ほんまか(笑)
成海後で送っておきます。