ルリユール(工芸製本)にとって大切なのは美しさです。
もちろん、ここで言う美しさはデザイン面のものを指しますが、機能面からも美しさが求められます。すなわち綴じ方や表紙の仕上げ方など、書物として持つべき「機能美」です。
上述のように、装飾的な美を施すことだけでなく、読みやすく使いやうく仕上げることも製本家に課せられた仕事です。優れた製本家はどちらも満たした書物を作り上げます。
逆に、素人が作った書物はページの開け閉めがスムーズにいかなかったり、たった数年で壊れてしまったり、使用する中で様々なトラブルが発生します。
製本家の仕事をより深く理解するうえで、そもそも書籍はどのように作られているのかを知っておくと良いでしょう。
書物の形によって様々な道具が使われます。
手製本の基本的な道具は以下の写真のとおりです。
(写真左から)
紙や革に印を付ける。紙を折る。
書物のサイズにもよるが、細かな作業にもカッターを使用するので大きすぎない方がベター。また刃が少ししなる方が使い勝手が良い。
糸や紙をつまむ。細かなゴミを取り除く。
しっかり切れるもの。切れ味の悪さは紙や布の反りや歪みに繋がる。
紙を傷つけないために通常の縫製針より太く、先端が鋭くない針が望ましい。
刺繍針で代用も可能。
正確に測るためにプラスチックのものより薄く、メモリが細かい鉄製のスケールが良い。
印をつけたり、綴じる際に糸をとおす(目引き)穴の貫通に使う。
革の細部を漉いたり切ったりする際の調整に使用。
革の厚みを調整する時に使う専用の包丁。形やサイズは様々。
作業する際に書物を固定する。のりいれをした際に圧着させる。
一冊の書物が出来るまでの作業工程 (革装。角ばった背の場合)
マーブル紙とは見返しに使用される美しいマーブル模様の紙です。
フランスの伝統的な手かがり製本「ルリユール」を参照
書物の内容や好みに合わせて、自身で革の種類や色、見返しに使う紙を選びます。
工芸製本が盛り上がり紙の印刷も安定しはじめるとマーブル紙に限らず内容を反映させたデザイン紙が使われるようになりました。
見返しは上記図のとおり、開くと1番最初に目に入る大切な箇所です。
書籍の頁は紙を二つに折ったものを4枚重ねた折丁と呼ばれるもので出来ています。小さな冊子が重なっているイメージです。
二つに折った紙を4枚重ねて1折丁が基本です。
書物の中身は折丁の背を綴じて作られています。
折丁を糸で綴じるため、背に穴を開けます。
1折丁ごとに穴をあけると、穴の位置がバラバラになり本文が綺麗に揃いません。
揃えた状態でプレス機に挟み、糸のこで背に切りこみを入れます。
切りこみの位置や深さについては、基準といえる法則はあるものの、ほとんど感覚的に行います。最後は革に隠れてしまう部分ですが、書物の仕上がりにとってとても重要な工程のため、熟練された腕が必要です。糸のこの切りこみが不十分の場合は、目打ちで貫通させます。
空いた穴に糸を通して綴じることで折丁をつなぎます。
全ての折丁をつないだものが書物の中身になります。
カバーは、厚めのボール紙を下記の図のように革(布装の場合は布)の上に配置し作ります。表紙・背・裏表紙にあたる箇所にボール紙がくるような配置です。
このカバーで本文を包むと書物の形になります。
書物を上から見ると、表紙と本文の間に違う色の生地が見えます。
これを『花ぎれ』といいます。
かつては本文の背に縫い付けていたため、損傷しやすい箇所の保護と装飾的な役割を同時に果たしていました。
書物の形を保つために大きな役割を果たしているのが背です。
本を読む際には絶えず開閉運動を繰り返します。したがって丈夫さと柔軟さを両立させるために、いくつかの工夫が施されています。
まず、頁がただ糸で繋がっている状態のため、背にのりを入れてしっかり接着させます。
その上から花ぎれ・寒冷紗(かんれいしゃ)・クータをつけていくわけですが、これらはそれぞれ役割が異なります。
さらに左写真の紙を細く筒状にしたものです。これをクータと呼びます。
クータを背に貼ることで、背と表紙の間に空間ができ、柔軟に開け閉めができるようになります。
写真右の生地が寒冷紗です。糊などが浸透しやすいよう網目状になっており、背と接着することで折丁同士の結びつきが強くなります。
カバーに貼った革の処理をします。そのままでは厚みが均一でなくボコボコしてしまうので、貼った際に重なる部分はメスやカッターを使って漉いていきます。
本文とカバーそれぞれが出来上がりました。最後にこれらを接着し一体化します。
下記の絵にある様に、カバーと見返しの間、さらに背にのりを入れプレス機でしっかりと圧着させます。この状態で丸一日置いて完成です。
以上の解説は作業工程を大きく分けたものになります。
これを箔押し職人の元へ持っていきタイトルを入れてもらい、1冊の書物が完成します。
このように書籍の作り方をみると、書籍の本分である知識の共有と保存という点から装丁が考えられ、そのうえで装飾的な美しさが加えられてることに気付かされます。
現在の書籍の形になるには、長い年月のなかで様々な工夫が考えられています。
機械化が進んだ現代では書物の生産は手製本ではなくなりましたが、ルリユールは製本工房や教室に残っています。
国際的なルリユールのコンペティションが世界各地(主にヨーロッパやアメリカ)で開催され、優れた製本家たちの作品を見ることができます。特にヨーロッパでは美術館や個人が現代の工芸製本をコレクションする動きも見られ、ルリユール文化を残そうとする動きが活発です。
日本でも教室が開かれ、ルリユール文化を楽しみながら育んでいます。
日本でルリユールに関心を持ち学ぼうとした際に誰もがその名を耳にする人物、栃折久美子氏について書き添えたいと思います。栃折氏は、日本にルリユール文化を初めて紹介した先駆的製本家です。
彼女はベルギー国立高等建築視覚芸術学校のルリユール科で学び、伝統的ルリユールの権威といわれるウラジミール・チェケルール氏に師事しました。
帰国後は後進育成のため工房で指導したり、様々な工芸製本に関する書籍を出版したりしています。
活躍の場は世界全体に広がり、様々なコンクールに出展しました。調和の取れた美しい表現と本場仕込みの高い技術で、日本のルリユール界を築いた功労者です。
代表的な業績は「パピヨン」の考案です。
パピヨンは栃折氏自らが考案した早製本の一種です。伝統的な技法に日本古来の綴じ方を掛け合わせた方法で、本来のヨーロッパの伝統的な綴じ方よりも短い時間で機能的な本に仕上げられます。
古くから継承されてきたルリユール文化は、今後も着実な進化を続けながら、国内外を問わず続いていくことでしょう。
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