紙の書籍には「質感がいい」「情報探索における操作性のよさ」などの利点がありますが、紙ならではの劣化に悩んでいる方も多いのではないでしょうか。
そこで、今回は「紙の劣化の原因や対策」「記録媒体としての紙の価値」に関する研究事例を紹介し、紙の書籍を長く保存するための方法をご紹介します。
まず、紙の劣化の要因を調べていきましょう。
紙の劣化機構に関してまとめた論文([1]:臼田誠人「紙の劣化問題の現状と劣化機構」)によると、事故や天変地異などを除けば、紙が劣化していく原因は「紙の酸性度」にあると述べています。その原因として、以下の三つを挙げています。
バンドによる酸加水分解とは、紙を製造する過程で使用される接着剤が保存環境の温度の影響を受けて化学反応を起こし、分子結合が弱くなることで紙そのものが崩壊することを指します。数百年単位で見ると、室温でもこの反応は起こるとのことです。
また、紙の骨格を形作っているセルロースとは、植物性繊維の主成分となる白い炭水化物のことです。このセルロースは光を吸収しないのですが、紙の製造過程で様々な共存物が含まれるため、これらの要素が光の影響を受けて酸化反応が始まってしまいます。
セルロースに関しては、アルカリ性の環境下において熱処理を行うと、急速に崩壊が進むことも判明しています。
以上のように、紙の劣化は環境による要因が多いことが分かりました。
それでは、紙の劣化の「予防」に焦点を当てて対応策を考えていきましょう。
紙の書籍や資料などを長期保存するための手段として、以下の3つを挙げます。
紙の劣化原因の最たるものは環境要因であることは先述の通りで、紙媒体の保存技術に関する論文([2]:木部徹「近代の紙媒体記録資料の保存修復技術」)でも、密封性の高い容器などに書籍や資料を保存するボクシング(boxing)が推奨されています。
光・熱・湿気などだけでなく、ホコリやチリなども劣化を誘発する原因となりますので、こまめな手入れを行うことが望ましいでしょう。
一橋大学が発表している論文([3]:林哲也「本の修理と保存」)では、鉄製の文房具(ホッチキス・クリップ・栞など)などによる錆が、紙の汚れ・痛み・劣化の原因になることから、これらの使用制限が賢明とのことです。
また、同論文では、もし紙の書籍が破損してしまった際の補修方法について、「貼って乾いた後も水に溶かせば戻せる可逆性がある」との観点から、デンプン系の接着剤を推奨しています。セロハンテープや化学性の接着剤は不適切とされていますので、本の補修などを行う際には留意しましょう。
近年では図書館における蔵書点検などの意味で使われる「曝書」ですが、本来は「虫干し」を意味していました。
加熱を行った書籍資料に送風を繰り返す曝書の効果を調べた実験([4]:望月有希子 ・江前敏晴「曝書による書籍の保存効果:竹紙を使用した漢籍の保存管 理技術の開発」)よると、9時間を超えて行う曝書は、紙に付着した酸性物質の除去に効果的とのことです。
あくまで酸性物質の除去に効果があるものなので、すでに劣化した紙を元に戻すものではありませんが、定期的に行うことで大切な蔵書をより良い状態での保存が可能になります。
このように紙の保存には手間がかかるものですが、情報保存に関して、実はデジタル媒体よりも優れているという研究論文([5]:金澤勇二「紙文書のデジタル 化と情報の寿 命」)があります。
この論文では、1000年以上に渡って現存している和紙に墨で書かれた紙媒体などを紹介し、その比較対象としてマイクロフィルムやデジタル媒体を挙げ、
データを古いフォーマットから新しいフォーマットへ移り変わる際に発生するマイグレーションの作業(例えばカセットテープからCD、CDからDVDなど)がデジタル媒体では莫大であることから、50年から100年に渡って情報を記録し続けることは、現実的ではないと主張しています。
数年単位での利便性の観点から見れば、デジタル媒体への移行は合理的ですが、数百年単位の長期的な保存という観点では不安が残ります。
このように考えると、紙の存在も捨てたものではありません。
後世に遺したい大切な想いは、紙の書籍を手間暇かけて保存していくことで、より一層その存在価値が上がり、大切に扱われ、語り継がれていくのではないでしょうか。
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