表現者の肖像 賀来 泉
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創業当初に背負った一千万円という莫大な借金は2年あまりで完済することができた。だが心が休まることはなく、息つく暇さえない。日曜の昼下がりに妻と会社前の花壇を手入れするひと時だけが、唯一癒される時間だった。

防犯カメラは相変わらず、飛ぶように売れていた。業務拡大に合わせどんどん社員を採用したが、次から次へと辞めていく。売上至上主義のモーレツ会社は、どこも似たような状況であるに違いない。そうしてやってきた会社だが、同時に「こんな経営ではいずれ行き詰まる」という漠然とした不安が消えることはなかった。

そんな折、私はある経営セミナー(中小・中堅企業の社長が700人も参加する大規模なものだった)に参加して、運命的な出会いをする。それは分科会講師として列席していた株式会社フォーバル代表取締役の大久保秀夫氏で、偶然講演を聞けることになったのだった。そこで言われていたことは――

  • 経営の〝やり方〟よりも〝在り方〟が大切だ。
  • 会社の在り方とは何か、自身の在り方とは何かを考えなさい。
  • 経営者には社員やその家族を幸せにするという使命もある。
  • まず会社の社会性を考え、次に独自性を考えなさい。経済性は最後。
  • 感謝される会社は成長するし、皆が納得する。

――こうした話のどれもが、その時の自分の心にストンと落ちて納得できた。私はセミナー参加者の同志と作る大久保塾に入り「自分の会社の在り方とは何か」をひたすらに考え、社員にもこんこんと説くようになった。

幻冬舎ルネッサンス

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