著者インタビュー

孤独死への誤解を解くため、本を書くことを思いついたのです。

現在、日本の年間死亡者数約125万人のうち、約3万人が孤独死を迎えているといわれており、2040年には年間20万人に到達するとも予想されています。
つまり、孤独死は今後、多くの人にとって、ますます「身近なもの」となっていくはずです。しかし一方で、孤独死に対してはいまだに、「かわいそう」「みじめ」といったマイナスイメージばかりが喧伝され、「おひとりさま」たちの不安を増幅させています。

本書は、こんな現状に疑問を抱く現役医師が綴った、「もしかしたら自分も、孤独死するかもしれない」と思っている人のためのガイドブックです。
「人はどのようにして孤独死に至るのか」に関する医師ならではの詳しい解説や、後にトラブルの種を残さず、きれいに生きて死ぬために必要な心構えや準備、さらには著者が考える「孤独死支援ビジネス」のビジネスモデルなどが書かれており、本書を読めば、孤独死に対し、みなさんが漠然と抱いているネガティブなイメージが薄れ、「孤独死も怖くはない」と思えるようになるでしょう。

―本作品のテーマである「孤独死」について考えるようになったきっかけを教えてください。

「きっかけ」というほどクリアカットなものではないのですが、私が今の生き方を続けていれば、その果ては孤独死だとずいぶん前からごく自然に思っていたのです。仕事の時はともかくとして、プライベートな時間は一人で自分の思うように自由に生きています。一人暮らしの自由を満喫しているのだから、死ぬ時も一人だと覚悟しておくべきでしょう。「最期は誰かに看取ってほしい」というのは虫が良すぎると思いませんか? それに、そもそも一人で死ぬこと、つまり「孤独死」は決して悪いことではないと思っているんです。

ただ、世間を見渡すと孤独死は徹底的に忌み嫌われてますね。人生で最大・最悪の不幸であるかのように語られることが実に多い。それが不思議なんです。世間の人たちは、孤独死というものをきちんと考える前にイメージだけで嫌い、恐れているんじゃないかと。

こんな思いがあるものだから、これまでも個人的に語り合える範囲では、「孤独死を誤解しないでね」、「孤独死って、そんなに悪いものじゃないよ」と話をすることがあって、そうやってきちんと説明すれば、かなりの人が納得してくれたのです。

―その思いをより多くの方に伝えるために出版されたのだと思いますが、改めて執筆のきっかけは何だったのでしょうか?

実は、その理由は私の仕事と密接に絡みます。
医者は、人の死に立ち会う機会が多い。肉親や友人・知人の死ほどではないにしても、患者さんの死もやはり悲しいです。そんな経験をする中で、いつの頃からか、「私が死ぬ時は、人を悲しませないようにしたい」そう思うようになったのです。人を悲しませない死に方ってどんな死に方だろう、と考えていくうちに、「誰にも知られずひっそりと死ねば、誰も悲しませないで済む」という思いに至ったわけです。

―冒頭に掲げられている孤独死八徳の一番目、「一人で死ねば、誰も悲しませずに済む」ですね。

そうなんです。
今考えると奇妙ですが、最初は「最期は孤独死だ」という認識と、「人を悲しませないで死にたい」という願いは繫がっていなかったのです。それがある時、ふと思いついたんです。「誰にも知られずひっそりと死ぬというのは、孤独死そのものじゃないか」と。
それまで私にとって孤独死は、一人暮らしの帰結として受け入れるべきものだったのですが、この点に気付いてからは、より積極的な意義が見えてきたんです。人生の最後に、「誰も悲しませない」という功徳を施すことができるじゃないか。言い換えると、孤独死は単に「悪くないもの」だけではなくて、より積極的に「善い」こと、人のためになることなんだと気付いたのです。
この考えに至ってからは、世間にはびこる「孤独死へのマイナスイメージ」に対する違和感はますます強まり、「孤独死への誤解を解き、孤独死のプラス面を理解してもらうよう、自分自身がもう一歩踏み込んだ努力をすべきではないか」そんな思いが強くなり、本を書くことを思いついたのです。

―執筆される中で気をつけていたことはありますか?

テーマがテーマだからこそ、あまり深刻にならず、ユーモアも交えて、かといって決して「軽い」ノリではなく……。私自身がそういう心構えで肩の力を抜いて執筆し、読者もそんな気持ちでこのテーマに向き合えるような文章に仕上げようと心がけました。
それと、世間の常識に反することを主張するのだから、「説得力のある文章にしよう」と工夫しました。

常識には常識なりの根拠があるわけで、なぜこれほど孤独死が忌み嫌われるのか、その理由をまず探りました。すると、どうやら一人で死ぬことそのものではなくて、「死体の発見が遅れること」、死んでから何日も、場合によっては何週間も放置されることが、恐怖と嫌悪の原因らしいとわかったのです。それなら、死んだらすぐに発見してもらえる対策を講じておけば、「一人で死ぬことそのものは恐れる必要がない」と説得できる。この見通しを得て、突破口が開けた感じでしたね。

―特に、孤独死を「自分に起こり得ること」として痛感している一人暮らしの高齢者は安心するのではないでしょうか?

それを、期待していますが、一人暮らしの高齢者を主なターゲットとして執筆をしたわけではないのです。もちろん一人暮らしの高齢者こそ、一番切実に孤独死への不安を抱えているでしょうから、その人たちに読んでもらって、少しでも不安を軽減してほしいとは願っています。
ただ、それだけでなく、もっと若い人たち、40代とか30代、あるいは20代くらいの一人暮らしの人たちも、「このままだと最期は孤独死か」という漠然とした不安を抱えていることはあるんですね。その不安から逃れるために、とりたてて結婚生活が魅力的とは思えないけど、「孤独死を避けるために婚活する」などという、わたしから見ると逆立ちした発想もあるようです。そんな人たちに孤独死も悪いものではないと語りかけて、安心させてあげたいですね。一人暮らしが好きなら、そのまま一人暮らしを続けていてかまわないよ、と。
もちろん一人暮らしが好きというのは今の社会でも少数派であって、多くの人はできれば素敵なパートナーを見つけて結婚して、幸せな家庭を築きたいと願っているでしょう。その人たちにとっては孤独死なんて縁のない話だと思われるかもしれません。でも、実は婚活に励んでいる人たちにとっても、孤独死はまったく無縁なわけではないし、この本は役に立つのです。

―タイトルとして『孤独死ガイド』を選ばれた理由を教えてください。

「ガイド」という言葉について講釈するなら、何よりもまず、死に方についての具体的な情報提供とアドバイスを心がけたいと思ったからです。せっかく医者が書くのだから、死に至る病気についての説明とか、終末期医療に関するリヴィングウィルとか、死んだ後の死亡診断書や死体検案書についての情報なども盛り込むことにしました。
ただ、それだけではなくて、医者という立場を離れて、一人の人間としても、より良い死に方を考えている人たちを手助けできるような情報や、わたしの意見も盛り込んでいます。
先ほどの話と関連しますが、「良い死に方」は「良い生き方」を前提にするはずだから、生き方、とりわけ人生の黄昏時の生き方についても、ガイドというか、「こうするといいかも」という意見を盛り込みました。

―最後に読者にメッセージをお願いします。

だいたい言いたいことは言い尽くしているのですが、あらためて語るなら、「孤独死」について、根拠薄弱な不安や恐怖にからめ取られないで、事実をありのままに見てほしいですね。そして、自分のこととして考えてほしい。お一人様だけでなく、「お二人様」であっても、伴侶が自分より先に逝けば、お一人様の終末を迎えることになるのだから、孤独死は誰にとっても人ごとではないのです。


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