著者インタビュー

ジェームス三木氏推薦
小説を書いている間、生きている歓びを感じる時間でもありました。

初恋の人、響子と過ごした甘美で狂おしい青春の記憶。

妻、京子と過ごす消えない愛に満ち溢れた日々……。
脚本家ジェームス三木氏大絶賛の壮大な愛の長編小説。

読み出すと面白くてやめられない。
ありふれた人生の畠をせっせとたがやす話だが、
気がつくと作者の催眠術にはまり、バトンを握らされている。
そう、人はみな歴史の中継ランナーなのだ。
――ジェームス三木

―執筆をされたきっかけを教えてください。

若い男と女の愛の形は、いつの時代も、その時代とともに違うものですが、戦後間もない半世紀前の私たちの青春時代には、確かにあったはずの、純愛とか、純潔という言葉は、もはや死語になってしまいました。

齢七十三歳を数え、パソコンにもスマホにも馴染めない典型的なアナログ人間である私は、この時代に取り残されてしまったような閉塞感と孤独を感じてしまうことがあります。

今の時代には今の時代の愛があるように、あの時代にも、あの時代の愛があったことを、小説という形で記憶しておきたいと思ったのです。

―出版前後で何か変化はありましたか?

この小説を書くきっかけになったのは、脳神経外科医に頭の中に隙間があると言われたことでした。たしかに隙間はよくなったとも言えないし、悪くなったとも言えないのですが、額に汗して鍬で畑を耕し、季節の野菜を作りながら、この小説を書いている間、肉体的苦痛は差し置いて充実したものになり、この歳になっても生きている歓びを感じる時間でもありました。

出版にあたり、経済的には援助してくれた家族や兄弟、親戚は私の書く小説にあまり興味を持ってくれなかったのは寂しくもありましたが、その逆に、影になり日向になり応援してくれたのが二人の友人だったのは有難いことでした。

―編集者とのやり取りで印象深かったことはありますか?

私の齟齬をきたすような丼勘定的文章には、日時や、年齢が間違ったものがたくさんあり、誤字脱字を含め、これがプロの仕事だと感心させられました。

契約枚数よりも遥かにオーバーしてしまい、構成を見直し省略するように言われたのに我が儘を通してもらったのと、確認するだけだと言われていた確認稿にも、たくさんの追加文章を書き込んでしまい編集担当に怒られてしまったのですが、その文章のすべてが活字になっていたのには感動しました。

―読者へメッセージをお願いします。

この小説は、二つの初恋の物語で構成されています。
一つは、賢太と響子の初恋であり、もう一つは、父の政五郎と、母の繭の初恋の物語でもあるのです。二つの初恋が道なき鋳薔薇の道に道を造り、愛を育みながら大いなる人生を築いて行くのです。
この初恋の物語は、普通の小説のように類型的、定型的な形に嵌った小説とは違い、そのストーリーとは関係なく?  詩があったり、箴言があったりと滅茶苦茶かもしれませんが、手塚治虫の作品に息抜きとして登場する、マスコットキャラクターの「ヒョウタンツギ」のようなものとして読んでいただけたら嬉しいです。

文豪と言われる人たちは文章を削りに削って、スッキリとした飲み口のなかにもキレを強調した芳醇な香りとコクを醸し出す純米大吟醸酒を作る米のようにスリムにしますが、私の文章は、校正すれば校正するほど太くなり、豚のようになってしまうのは文才のないあかしだと反省しております。

この小説は、癒しの物語です。
この小説は、ほのぼのとした父と母と子が織りなす家族愛の物語です。
この小説は、かたくなまでに純粋な愛を一途に生きようとした男と女の物語です。
この小説を、故郷を遠く離れて暮らす人たちに、故郷知らない人たちに、心が石になってしまった人たちに、生きるのが辛く切なくなってしまった人たちに読んでほしいのです。

最後に、産経新聞で「朝の詩」の選者をされている詩人の新川和江先生より戴いた書翰の抜粋を読み上げます。

「約束」という自伝的小説、拝見させて頂きました。
病床のお父様が膝の上に”僕”をのせて、
男と男の約束だから、と言い聞かせるくだり
に、昔の父親はなんと偉かったのだろうと、
大感動を致しました。あの頃は、大人も子
供も、人間としての立派さを具えていました
ね。生きていく上で味わわねばならぬ: 切な
さ”というものがあって、それが心を美しく
研ぎ上げてくれた。そのように思います。
                 新川和江


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