小説を推敲する重要性とやり方やテクニックを学ぼう
自作の小説を読み返し、「すっきりしない」「垢ぬけない」と感じた経験はありませんか。洗練された文章を書きあげるには、繰り返しの推敲が必要不可欠です。とはいえ、推敲の手順や具体的に何をすれば良いか分からないと悩む人も多いでしょう。
そこで今回は、推敲の重要性や手順、便利ツールについて解説します。このコラムを読めば、あなたの小説をより輝かせるヒントを得られるはずです。
小説における推敲の役割とは?
小説を書くうえで、推敲がどのような役割を果たすか、まずはその重要性を知っておきましょう。
推敲とは?(推敲の定義)
推敲について、辞書には下のように解説されています。
“推敲とは、文章の表現を自ら吟味し、修正し、より洗練された表現へ直しを加えること。”
『weblio辞書 新語時事用語辞典より引用』
また、推敲という単語の由来については、
“推敲の推の意味は訓で「おす」と読み、「何かを推薦する」という意味だけでなく、「物理的に何かに力を加えて前進させる」という意味もある。一方で推敲の敲の意味は訓で「たたく」と読み、「何かをとんとんと打つ」や「かたいものやこぶしで打つ」という意味がある。賈島という詩人が漢詩の詩句において「推」という字を当てはめるか、それとも「敲」の字を当てはめるか悩んだ事から生まれた故事成語であるため、推敲の意味としては詩や文章を作る時により適切な字句や表現を求めて、試行錯誤し作品として練り上げる事をいう。” 『weblio辞書 新語時事用語辞典より引用』
と説明されています。
古くから人は、より良い表現を求めて試行錯誤してきました。“推敲”の由来からも分かるように、表現を磨くためには悩み、苦労する過程が必要なのです。
推敲と校正・校閲の違い
推敲と似ている表現に「校正」「校閲」があります。
これらは、文章を磨き上げる作業という意味では同じですが、その作業内容や目的、誰が担当するかに、違いがあります。詳しくみていきましょう。
【校正】
校正は、表記・言葉の使い方・文法構造に誤りがないかを確認する作業です。
具体的には、誤字脱字、表記のゆれ、専門用語や同音異義語のチェックなど、主に文字や文法的な間違いを見つけるために行います。
【校閲】
校閲は、文章内容に誤りがないかを確認する作業です。
文中に登場する情報やデータ、固有名称、数字などの事実に間違いがないかチェックをしていきます。校閲は文章の内容に踏み込むため、校正に比べて時間がかかる場合が多いです。
【推敲と校正・校閲担当者の違い】
推敲では、ライター自身が何度も自身の文章を読んで練り上げていきます。一方で、校正・校閲は第三者(校正・校閲の専門家)に依頼する場合がほとんどです。記事によっては、校正・校閲作業もライター自身で行うこともありますが、正確性や、信頼性のある文章を書きあげるためには、第三者を入れ、着実に確認する必要があります。
小説における推敲の意義
どんなに素晴らしいストーリーや魅力的なキャラクターが登場する小説でも、文章が分かりにくければ読者はすぐに離れてしまいます。
読み手の頭がストーリー以外のことに向かないように、推敲で、まずは読みやすく・分かりやすい表現に仕上げる必要があるのです。そのうえで、さらに読者を引き込むための緻密な表現方法を追求していきましょう。
小説の推敲やり方は?
推敲でやるべきこと
推敲では、文章を繰り返し読み、違和感を無くすことが重要です。
何度も文章を読むと、「なんとなく引っかかる」場所が出てきます。これが違和感です。多くの場合、違和感の正体は書きすぎによるもの。文章が長くなっていて、スラスラ読めないことが原因です。逆に、説明不足で、前後の話が上手く繋がっていない場合もあります。このような違和感に気付くためにも、文章を書き上げてから何度も時間を空けて読み返しましょう。
【推敲で確認する項目】
・文章は長すぎないか?
・説明が不足している(分かりにくい)箇所はないか?
・同じ表現を繰り返していないか?
・ひっかかりを覚える部分はないか?
上の推敲で確認すべき項目を参考に、自分の文章を振り返ってみて下さい。何度も繰り返しているうちに、文章のクセ(表現方法の偏り)にも気付くはずです。
推敲するタイミングは?
小説の場合、新たに文章を書くタイミングで前回の内容を振り返って推敲するのがオススメです。推敲する文章は、書いた日から1日以上空けて読みましょう。少し間をとって文章に向き合えば、客観的な視点で表現をチェックすることができます。
なかには、推敲は後回しにして、勢いのまま小説を書きあげたいと感じる人もいるかもしれません。しかし、全て仕上がって最初から推敲するのは、とても労力のいる作業です。また、推敲によって途中の表現を変えると、前後の整合性がとれない場面も出てきます。それを避けるためにも、小説を推敲する場合は、できるだけこまめにタイミングを分けて推敲すると良いでしょう。
オススメの方法
推敲では、自分の書いた文章を客観的視点でチェックする必要があります。そのために、「日にちを空けて文章に向き合う」「声に出して読む」「印刷して読む」方法がオススメです。また、自分で推敲を重ねた後に、実際に第三者に読んでもらうと新たな気付きがあるかもしれません。
小説推敲「削る」の重要性
小説の推敲では「削る」作業が、とても重要です。ここでは、文章を削る目的や、作家の推敲テクニックを学びましょう。
小説推敲で「削る」が重要な理由
小説には、物語を通じて読者に伝えるべきテーマが存在します。どんなに長い小説でも、明確なテーマに沿ってストーリーは展開していくのです。
しかし、テーマが絞り切れずに話が進めば、読者は最後まで「一体作者は何が言いたかったのだろう?」と感じるはずです。それを防ぐ役割を果たすのが削る作業です。無駄をそぎ落とせば、重要な部分をハッキリと浮かび上がらせることができます。
テーマに限らず、文章でも同じです。常に書き手は無駄な表現はないか、目を光らせて確認しましょう。その意識が、簡潔で伝わりやすい文章に仕上げるのです。
作家大江健三郎から学ぶ推敲
作家、大江健三郎は推敲によって自身の第一稿を大幅に削ることで有名です。
著書である「文学ノート」でも、曖昧な表現を正確にできないのならば、削除してしまった方が良いという意見が出てきます。削ることで、本当に伝えたいものを際立たせる大江健三郎のポリシーを垣間見ることができるでしょう。
小説の推敲(校正)に使えるツール
推敲や校正では自分の書いた文章に間違いや分かりにくい点がないか、客観的に見つめる必要があります。そこで便利なのがチェックツールです。ここでは、推敲や校正に使えるツールを3つご紹介します。
・読みやすさチェッカー
・Enno
・日本語校正サポート
「読みやすさチェッカー」は、冗長表現、長すぎる文、ひらがなで書くと読みやすい漢字などにマークが入ります。自分の文章のクセに気付くきっかけになるかもしれません。「Enno」と「日本語校正サポート」は、校正作業を助けてくれるサイトです。自分では気づきにくい誤字脱字や変換ミスを指摘してくれます。
文章が垢ぬける推敲テクニック
夏目漱石に習い“主語”の使用を控える
「私」「僕」「俺」などの主語を使っていませんか?
小説の主人公のセリフやモノローグ、自分史で著者が自分自身の想いを語るとき、主語をたくさん使ってしまうことがあります。これを、思い切って削ってみましょう。
かの夏目漱石も、『坊ちゃん』ではあまり主語を使っていません。以下は坊ちゃんの書き出し部分ですが、試しに読んでみてください。
――親譲の無鉄砲で小供の時から損ばかりしている。小学校に居る時分学校の二階から飛び降りて一週間ほど腰を抜かした事がある。なぜそんな無闇をしたと聞く人があるかも知れぬ。(出典:青空文庫『坊ちゃん』)
主語を削ることで、雰囲気を壊さずテンポ良く読める文章に仕上げていますね。
“読めない漢字”をひらがなに
活字離れの影響で、漢字を読めない読者が増えています。そうした状況の中で、みなさんはどこまで漢字を使いますか?原稿に難しい漢字を使うことも、個性のひとつなのかもしれません。しかし、読みづらい文章になってしまっては本末転倒。まずは以下の漢字を使っていないかチェックし、平仮名に直しましょう。
事(こと)
為(ため)
筈(はず)
訳(わけ)
又(また)
且つ(かつ)
然し(しかし)
但し(ただし)
殆ど(ほとんど)
或いは(あるいは)
小説内で、これらの漢字を使っていませんか?さらに、「只管」「尚更」といった漢字を使用している文章もあります。どの漢字を直すべきか分からない場合は、人に原稿を読んでもらいましょう。客観的な視点で読みにくさをアドバイスしてくれるはずです。
“決まり文句”を見直す
最後に気をつけてほしいのが、決まり文句の使用です。文章を格好良く見せたくて、決まり文句を文頭や文末に加えていませんか?安易に使うと、表現力の乏しさを晒すことになりかねません。
決まり文句とは、例えば以下のようなものが挙げられます。
・子どもは正直だ
・社会は決して甘くない
・スポーツマンはさわやかだ
・新入社員は初々しい
上の例はほんの一部で、挙げてしまえばきりがありません。
1度書いた文章を読み直し、「どこかで見たことのある表現」「自分の言葉で書けていない」と感じる箇所は書き直しましょう。
これら3点のテクニックを意識すれば、リズム良く、スムーズに、オリジナリティある文章に変わるはずです。小説を振り返り、該当する文章を見つけたら、今すぐ修正しましょう。きっと、今より素敵な原稿に仕上がりますよ。
まとめ
小説を推敲する目的は、読者が物語に集中できるように、読みやすく、洗練された表現に仕上げていくことです。そのためには、客観的な視点で自分の文章に向き合う必要があります。小説完成後、日にちを空けて文章を読む、声に出す、紙に印刷するなど、客観的に自分の文章を見つめる工夫を取り入れましょう。
また、推敲では“削る”作業も重要です。一生懸命紡いだ言葉を削る作業は苦痛に感じるかもしれません。しかし、本当に伝えたいテーマを読者に届けるためには、無駄をそぎ落とし、濃淡をハッキリさせる必要があるのです。