小説校正の役割は?やり方やプロのスキルも解説
小説を完成させるには、さまざまなプロセスが存在します。
勢いに任せて文章を書き、一度も読み返すことなく終わってしまっては、魅力ある小説にはなり得ません。スムーズに読み進められるように、何度も磨く必要があるのです。
本記事では文章を完成させる工程のなかでも特に“校正”について深掘りします。この記事を読んで校正の役割や実際のやり方、プロのスキルを学び、校正への知識を深められれば、あなたの小説は、より読みやすいものになるでしょう。
小説の校正とは
小説の校正には、どのような役割があるのでしょうか。校正の重要性や、混同されやすい“校閲”との違いを詳しく解説します。
校正の定義
“校正とは、記事の制作過程において、現在の原稿と1つ前の原稿を比較し、誤りを見つける作業のこと。また、誤字や脱字、衍字などの誤りを見つける作業のこと。”
『weblio辞書実用日本語表現辞典』より引用
“校正は、赤字照合と突き合わせに分類できる。赤字照合とは、1つ前の原稿に書き込まれている修正内容が、現在の原稿に正しく反映されているかどうかチェックする作業のことである。突き合わせとは、1つ前の原稿で指摘した内容が現在の原稿に正しく反映されているかどうかを1文字ずつチェックする作業のことである。”
『weblio辞書実用日本語表現辞典』より引用
つまり校正は、誤字脱字衍字など文中の明らかな誤りを見つける作業を指します。チェックの抜け漏れが出ないように指摘箇所(赤字部分)が修正されているかを確認する“赤字照合”や、1文字ずつ追っていく“突き合わせ”で丁寧に誤りがないかを探すのです。
校正と校閲の違い
文字や言葉の誤りを確認する校正作業に対し、校閲は文章の内容に間違いがないかチェックしていきます。両者の違いについて、下の例を参考にしましょう。
“例えば、「富士山の標高は2776メートルでっす。」という文の場合、「でっす」の誤りを指摘するのが校正作業で、「2776」の誤りを指摘するのが校閲作業である。”
『weblio辞書実用日本語表現辞典』より引用
この例でも分かるように、校正と校閲の目的は文章の確認作業で同じですが、チェックする対象によって呼び名が異なります。
小説での校正の意義は?
校正が不十分だった場合、どのような問題が生じるのでしょうか。小説校正の意義を考えてみましょう。
小説を印刷(製本)してしまってから訂正箇所が見つかった場合、内容によっては刷り直しで手間やコストが余計に発生してしまいます。また、校正の不十分な文章は読みにくく、読者が離脱してしまうことも。どんなに素晴らしいストーリーの小説でも、最後まで読んでもらえなくては魅力が伝わりません。
一方、WEB公開の小説は修正可能なため、印字する場合と比較して校正作業が甘くなりがちです。そのため、誤字脱字も多い傾向にあります。いくら修正可能とはいえ、間違いだらけの文章では読者の信頼も低下してしまいます。
読者がストーリーに集中する環境を整えるためにも、文章を見直す校正作業は重要な役割を果たすのです。
小説校正で確認すべきこと
この章では校正で確認すべきことを具体的に解説します。書き上げた小説をセルフチェックする際の参考にしましょう。
誤字・脱字・衍字(えんじ)
誤字:誤った用法の文字、誤って書かれた字
脱字:書き落とした文字、印刷で抜け落ちた文字
衍字(えんじ):語句の中に入ってしまった不要の文字(脱字の対義語)
誤字脱字と比べ、衍字はあまり聞きなれない言葉かもしれません。誤字脱字衍字の実例を見ながら確認してみましょう。
例:しまうま
誤字→しますま
脱字→まうま
衍字→ししまうま
また、印刷物では誤字脱字衍字などのミスプリントをまとめて誤植とも表現します。
表記のゆれ
表記のゆれとは、小説内で同じ意味をあらわす言葉の使い方が不統一であることを指します。例えば次のような例が考えられます。
1.同じ物を指す言葉(値段、費用、金額、価格)
2.ひらがな、カタカナ(おすすめ、オススメ)
3.漢字の表記(一人、独り)
4.送り仮名の表記(税込み、税込)
5.固有名詞(Amazon、アマゾン)
表記のゆれは、誤字脱字のように明らかな間違いではありませんが、統一感のない表記によって読者を疲れさせてしまいます。また、細やかな校正を行っていない印象も与えてしまうでしょう。
英数字、括弧の半角全角
ローマ字表記の大文字・小文字や、数字の半角・全角も統一するべきです。
英数字は半角を使用するのが一般的です。また、括弧や点などの記号は全角を用いると、適度に文字との間隔ができて読みやすい印象を与えるでしょう。
文体の統一
文章内では文体(語尾表現)を統一させる必要があります。
「です・ます調」、「だ・である調」どちらを選択するか書き始める前に考えましょう。どちらを選ぶかによって、読者の印象も変わってきます。
「ですます調」は、読者にやわらかい(優しい)印象を与えます。ビジネスシーンや、手紙、スピーチにも適した文体です。一方、「だ・である調」は、文末を簡潔に言い切る特徴があり、論文や報告書・レポートにも向いています。
どちらの文体にもメリットデメリットや、印象の違いがあるので、キャラクターやストーリー内容によって慎重に選択すると良いでしょう。
ら抜き、い抜き言葉
日常の会話文で、つい使ってしまう「ら抜き」「い抜き」言葉。友人とのくだけた会話で使うのは問題ないかもしれませんが、文章にする時には気を付けましょう。
【ら抜き言葉の例】
×食べれる
〇食べられる
【い抜き言葉の例】
×思ってます
〇思っています
これらの表現は、時代の変化と共に認められるケースもあります。しかし、ビジネスや文章で書く際は、「ら抜き」「い抜き」言葉を避けて表現するのが無難です。
同音異義語
同音異義語とは、字のとおり発音は同じでも、違う意味を持つ熟語(漢字)のことです。校正では、この同音異義語の間違いにも注意しなくてはなりません。
×東京まで電車で異動する(異動:地位や勤務が変わること)
〇東京まで電車で移動する(移動:位置をかえる、移り動くこと)
校正で同音異義語の間違いを発見するためには、文脈をよく理解しながら読み返す必要があります。しかし、長い小説を確認するのは骨の折れる作業です。そこで、校正チェックツールの活用も検討すると良いでしょう。
てにをは
校正での「てにをは」確認とは、日本語の助詞が正しく使われているかをチェックする作業です。具体的には「を・が・は・の・に・も」などの助詞に抜け漏がないか、使い間違いはないかを探しながら読み返していきます。
【具体例】
×母は朝食を作っていたとき、私はテレビを見ていた。
〇母が朝食を作っていたとき、私はテレビを見ていた。
上の例では、助詞に「は」を利用することで、同じ助詞が続く違和感や主語が曖昧になってしまっています。正しい助詞を選べば、主語との関係や、強調したい部分がはっきりした読みやすい文章になるのです。
尊敬、謙譲、丁寧語の区別
敬語(尊敬、謙譲、丁寧語)を正しく使い分けられていますか?
尊敬語は相手を立てる敬語で、自分より目上の人が主語になります。
謙譲語は自分がへりくだって相手を立てる敬語表現。自分や身内が主語になる場合に多く用いられます。
丁寧語は読者や聞き手に敬意を表した丁寧な言い回しをする敬語。「です」「ます」や言葉の頭につける「お・ご」、例えば「お寿司」「ご祝儀」などがこれにあたります。
尊敬語、謙譲語、丁寧語が正しく使われているか、校正で確認しましょう。
小説校正の工夫
小説の校正では、自分の書いた文章を客観的に見つめる必要があります。そのための工夫を考えていきましょう。
期間をあけて確認する
小説完成後の確認作業は少し期間をあけて行う必要があります。
なぜなら、すぐに文章を見直しても、主観が抜けず、間違いや表現の違和感に気付くことができないからです。そのため、少なくとも一晩おいて、翌朝以降に校正作業に取りかかりましょう。
声に出す、紙に印字する
校正作業では、声に出して読む方法も効果的です。視覚と聴覚の二つで確認できるうえ、音読ではリズムの違和感を感じとることができます。
また、プリントアウトして線を引きながらの校正作業も一字ずつ確実にチェックできるのでおすすめです。
第三者とチェックする
セルフチェック作業には限界があります。特に、小説の出版時や紙媒体での制作物では校正の抜け漏れに十分な注意が必要です。個人での確認に合わせて、第三者に読んでもらうと良いでしょう。
プロに任す方法も
編集者や校正者に依頼するのも選択肢の一つ。第三者の視点が入るだけでなく、その道のプロが作業を行うので安心です。小説出版を考える場合は是非検討しましょう。
校正のスキルや仕事
校正を専門に働く人を校正者(校正家)といいます。校正者に必要なスキルや、どんな人が向いているのか詳しく探っていきましょう。
校正者になるための資格は?
校正者になるために、必ずしも資格が必須という訳ではありません。資格がなくても、過去の経験やスキルが認められて校正者として働く人もいます。しかし、未経験で校正者として採用されるのは難しく、資格を保有していると有利です。また、実際に働く時にも資格勉強の知識が活きるはずです。
【校正者に役立つ資格】
➀校正技能検定試験
校正技能検定試験は、日本エディタースクールが実施する技能検定試験です。難易度別に初級、中級、上級に分けられています。
➁校正士認定試験
文部科学省認定の校正実務講座の通信教育修了後に校正士認定試験を受験することができます。通信講座で標準学習時間は6ヶ月。カリキュラムや添削課題に取り組み、校正技術の向上に役立ちます。
校正者に向いている人
校正者に向いている人の特徴を考えるとき、大前提としてあげられるのは文章を読むのが好きだということです。さらに、文章の間違いを長時間探す集中力や忍耐力を持っている人が向いているといえます。一度の校正作業で満足するのではなく、抜け漏れはないか何度も確認する丁寧な姿勢も大切でしょう。
まとめ
校正とは誤字脱字衍字など、文中に明らかな誤りがないか確認する作業です。校正を疎かにすると、文章の読みにくさや信頼性の低下につながり、読者が離れてしまいます。小説を最後まで読んでもらうためにも、校正は、なくてはならない作業なのです。
校正と同じく、文章を確認する作業として校閲があります。両者は混同されがちですが、校正は文字や言葉の間違いを探すのに対し、校閲は文章の内容を確認する点に違いがあります。
校正で文章を確認する時には、客観的な視点を持つ意識が重要です。期間をあけて見直す、紙に印字して一字ずつチェックする、声に出すなど工夫しましょう。
ただし、セルフチェックには限界があります。小説出版や、紙での発行物の場合はプロに依頼するのも選択肢の一つ。校正不足で後に大きな修正に発展するのを防ぐためにも、出版社や校正者などプロの手を頼ることも検討すると良いでしょう。