その本、読むとき肩コリませんか?
難しい本を読むとき、「肩が凝る」などとよく言われるが、内容にかかわらず昨今の本は肩が凝る、ような気がする。
有名な絵画「読書をする娘1775年:フラゴナール」を見ると、美しい女性が、文庫本くらいの小型本を右手に持ち、読書をする姿が描かれている。
それは丁度、現在の電車の中での読書スタイルだ。
一方大型本はというと、片手で持ち上げるには重すぎ、机の上にフラットに開いて見ることになる。
が、残念なことに、本は手で支えないと開いた形を保ってはくれない。
ページがはらりと閉じようとするとき、手で押さえ続けなくてはならないことが、私の肩コリの原因である。
本が開いた状態でとどまってくれないのは、その製本構造(システム)に原因がある。
本は、一定枚数の紙を束ねたものであるが、束ね方は大きく分けて二通り。
糸綴じ、と無線綴じ(接着剤を使用した束ね方)である。
無線綴じとは電話帳やメモ帳がその代表で、積み重ねた紙の背を接着剤で固める方法である。
写真集のように、見開きページの真ん中に綴糸が見えることを避けるため無線綴じを採用する場合もある。
問題はその接着剤である。
このホットメルトと呼ばれる接着剤は経年とともに硬化して柔軟性を失ってしまう。
現在、学校図書館や公共図書館の現場では、大型の写真集や雑誌など、特に写真を多用した本が真ん中でバックリ割れ、その周辺のページが外れていく、という現象が図書館員を悩ませている。
肩コリの原因と本の傷み。
近年、この二つの問題を解決する画期的な製本方法(クータ・バインディング)が開発された。
最近話題を呼んだ「伊藤若冲展」の図録もこの方法で製本されている。
この製本方法を開発したのは長野にある「渋谷文泉閣」という製本会社である。サイトによれば
この製本方法は本の背の部分に筒状の紙(クータ)を貼る事により、本を開くと背表紙と本体の間に空洞ができ、開いたページをほぼ平行に保つ事のできる構造です。開発のきっかけとなったのは当社取締役会長が、肢体の不自由な友人から受けた「手で押さえなくても閉じない読みやすい本が欲しい」という要望から。製本は従来、頑丈であることが優先されており、それは人に優しい読みやすさとは相違するものでありましたが、より本に親しんでもらうために広く一般の読者の需要に応えるべく試行錯誤の上、ようやくこのクータ・バインデ
ィングを開発、丈夫で読み易い本が実現された。
引用元:http://www.bunsenkaku.co.jp/
とある。
このクータ・バインディングには従来の接着剤に替わる“PUR”という接着剤が使われている。
高温、低温に耐え、硬化が少なく環境にも優しいこの「夢の接着剤」はちょっと残念なことに、少々値段が高く、製本ラインそのものを新しく導入する必要があるだけでなく、“PUR”に対する技術力により仕上がりにも大きな差が出るらしい。
行く手を阻む障害はなかなか手ごわいといえる。
上:従来の綴じ方
下:クータ・バインディング
IT化が進み、むしろ紙の本が見直されている今、情報を次世代に残す大切な手段としての紙の本づくりについて、読者も、著者も、出版社も、製本会社も、本気で取り組む必要があるのではないだろうか。
npo法人書物研究会
代表理事 板倉 正子
Npo法人書物研究会ホームページ:http://www.npobook.join-us.jp/