執筆お役立ちコラム

【ノンフィクション小説とは】話題作から特徴や書く時の注意点を学ぼう

日常生活で面白いと思った出来事を周囲に話した経験はありませんか?
昨今ではSNSの普及によって、魅力を感じたものを、すぐに文字や写真で共有できるようになりました。最近開店したカフェ、ふてぶてしい表情の野良猫など投稿内容は人それぞれです。
しかし、それらを投稿する行動の背景には共通して「これを知ったらびっくりするだろう」「あの人にも教えてあげたい」という気持ちがあるのではないでしょうか。ノンフィクション小説の執筆も、実はこの延長線上に位置しています。
このコラムでは、ノンフィクション小説の定義を知り、話題作から実際に書く時のコツを学んでいきましょう。

ノンフィクション小説とは

ノンフィクションとフィクション小説の違いに注目しながら、その特徴や魅力を解説します。

ノンフィクションとは

“ノンフィクション(non-fiction)とは、過去に現実にあった出来事(事実)に基づく物語として制作された作品(コンテンツ)、および、作品ジャンルのことである。”
Weblio辞書、実用日本語表現辞典』より引用

一方、フィクションは下のように説明されています。
“「fiction」とは、架空の物語や創作物を指す言葉である。文学や映画、テレビドラマなど、現実には存在しない登場人物や出来事を描いた作品を指す場合が多い。”
Weblio辞書、実用日本語表現辞典』より引用

つまり、ノンフィクションとフィクションは、事実に基づく作品か、架空のストーリーや人物を描く創作物かという点に違いがあります。

また、ノンフィクションとフィクションの特徴が混ざった中間の作品をファクションまたはセミフィクションと呼びます。これらは、実際の人物や出来事をもとにストーリーを創造したものを指し、歴史小説によくみられる手法です。

ノンフィクション小説のジャンル

代表的なノンフィクション小説ジャンルは下記のとおりです。
・恋愛
・歴史(戦争もの)
・闘病記
・事件
・旅行記
・社会
・伝記(人物伝)

ひとくちにノンフィクション小説といっても多くのジャンルが存在することが分かります。まずは、自分の興味ある分野から足を踏み入れてみるとよいでしょう。

ノンフィクション小説の魅力

ノンフィクション小説の最大の魅力は、フィクションにはない臨場感やリアリティによって大いに迫力を味わえる点です。本人にしか知りえない事実や感情の描写は読者の心を激しく揺さぶります。

ニュースで話題となった事件に隠れた真相、偉人たちの思考や軌跡、実際の旅で分かる人との関わりや郷土料理、未知なる職業の裏側など……。それらの事実は、時として、フィクションを越えた物語を紡ぐのです。

また、ノンフィクションの戦争小説・事件小説では、当事者の身に起こった事実の壮絶さや悲惨さを後世に語ることで、二度と悲劇が繰り返されぬよう現代社会に警鐘を鳴らす意義を持ちます。

ノンフィクションを扱う難しさ

創作の物語であるフィクションと違い、ノンフィクションでは事実に忠実でなければなりません。まずはテーマを決め、そのテーマに沿って事実を細部まで表現します。

そのためには、実際に見る、聞く、考えを深める取材作業が必要不可欠です。場合によっては、その取材作業が長期に渡ることも。手順を踏んで、事実やその裏に隠れた真実を理解したうえで、ようやく書き始められるのです。

ノンフィクション小説話題作

ここでは、話題となったノンフィクション小説にふれていきます。これらの特徴を知り、テーマ決めや事実描写、ノンフィクション執筆の意義を考えていきましょう。

窓ぎわのトットちゃん(著:黒柳徹子)

1981年に出版された、女優でタレントの黒柳徹子の自伝である本作は、総発行部数が2500万部を超え、世界中で読まれる戦後最大のベストセラーとなっています。
本作の魅力は、なんといっても黒柳徹子自身の経験を、お茶目に鮮明にストーリーに描いている点です。それまで問題児とされていた、個性の光る“トットちゃん”が『トモエ学園』に入学してから繰り広げられる温かな交流。そこから感じられる、教育の大切さ。そして戦争の悲惨さ。実体験だからこそ伝わる強いメッセージは、何度読んでも考えさせられます。

1リットルの涙 難病と闘い続ける少女亜也の日記(著:木藤亜也)

『1リットルの涙』は著者、木藤亜也が脊髄小脳変性症の難病を綴った日記を、まとめた小説です。本作は、2004年に映画化され、その後2005年にはドラマ化もされ、反響を呼びました。
ノンフィクションだからこそ、本人の病と向き合う葛藤や、希望を捨てずに生きるひたむきな姿に胸をうたれ考えさせられます。生きることの尊さを心から感じる一冊です。

アンネの日記(著:アンネ・フランク)

『アンネの日記』は、第二次世界大戦中のオランダアムステルダムを舞台に、ユダヤ系ドイツ人である著者、アンネフランクの日記をもとに作られました。
この本を読むと、ナチス・ドイツのユダヤ人迫害の残酷さや、それを巻き起こす原因となった戦争の悲惨さを感じ、“二度と戦争を起こしてはいけない”と、後世へのメッセージを受け取るはずです。
ホロコーストを避けるための隠れ家生活でも、未来を信じて希望を持って生きるアンネの懸命な姿に、あなたは何を感じるでしょうか。

自閉症の僕が跳びはねる理由(著:東田直樹)

著者の東田直樹が13歳の時に自身の自閉症について執筆したノンフィクションエッセイ(伝記)です。日本で2007年に出版された後、英訳版も2013年に出版され、世界的なベストセラー作品となりました。
自らの自閉症の日常で起きる事象や、どのような助けが必要なのか、自閉症の特性を持つ本人だからこそ分かる内容は、ノンフィクション小説ならではの魅力が詰まっています。

深夜特急1 ―香港・マカオ―(著:沢木耕太郎)

バックパッカーのバイブルともいわれる本書は、著者沢木耕太郎の体験に基づいた旅の記録です。全ての仕事をキャンセルして乗り合いバスでアジアからロンドンを目指す様子が描かれています。自由で大胆な旅の様子がユーモア溢れる瑞々しい表現で描写され、読めば旅に出たくなるはずです。
ノンフィクションだからこそ、リアリティあるエピソードの数々に魅了されます。旅が好きで、いつかノンフィクション旅行記を書きたい方の必読書です。

ノンフィクション小説の注意点

実際にノンフィクション小説を書く際には、どんな注意が必要でしょうか。フィクションとは違う注意点を学びましょう。

事実の徹底的な調査を

事実に基づくノンフィクション小説では、徹底的な調査(取材)活動は欠かせません。ネット、新聞、映像、書籍、インタビューなど、調査方法は多岐にわたります。特にインタビューは生の声のため、まだ知られていない最新の情報が得られるかもしれません。
また、調査を行ったら、信頼できる情報かどうか必ず確かめましょう。デマ情報だった場合、「ノンフィクション」とはいえなくなってしまいます。特に事件や歴史・戦争を題材にする場合は、時系列で起きた事実や周囲の状況、関係者の心理変化まで、丁寧な聞き取り調査によって慎重に状況を把握しましょう。いかなるときも情報を鵜呑みにしないことが、徹底した調査の鉄則です。綿密な調査を積み上げることで、信頼され、読者の心をうつリアルな描写につながるのです。

テーマ選びは慎重に

ノンフィクションライターの野村進氏の『調べる技術・書く技術』(2008年、講談社)によると、ノンフィクションテーマでは以下5点を重視すべきとあります。

①時代を貫く普遍性を持っているか
②未来への方向性を指し示せるか
③人間の欲望が色濃く現われているか
④テレビなどの映像メディアでは表現できないか、もしくは表現不可能に近いか
⑤そのテーマを聞いた第三者が身を乗り出してきたか

①と②の基準は、長く愛される作品を作る時に重要です。ある時代の世相を色濃く反映したノンフィクション作品には、読み物としての面白さだけではなく歴史的資料としての価値が宿ります。

③と⑤は、読者の心を惹きつける吸引力となります。とりわけ③は、ノンフィクション作品の魅力である、実話だからこそ見られる人間の暗部を表現することを指しています。痛ましい戦争の記憶や事件など、道徳的には決して認められるものでなくとも、それを事実として記録に残せば未来を変える力になるかもしれません。そこに大きな意義があるのです。人間とは一体何者か、その核心に迫れば、力作になること間違いありません。

④は文章表現のもつ独自性に関する基準です。
「事実の記録」の観点からいえば、映像資料に勝るものはないと思うかもしれません。しかし、文章を使ったノンフィクション作品では、事前取材によって浮かびあがる人々の心情や時代の雰囲気など、目には見えないものを文章で表現することができるのです。

事実のもつ力を信じる

ノンフィクションである以上、事実に脚色を加えてはいけません。
余計な演出などなくとも、作品として残すだけの価値のある出来事であれば、それ自体に人を惹きつける力があるはずです。わざと面白くしようとするのではなく、とにかく忠実に事実を写し出す意識を持ちましょう。

ノンフィクション小説を書くために

日々の経験や出来事をメモする習慣を

旅行、闘病、恋愛エッセイなど、自分の経験やエピソードをもとにノンフィクション小説を書く場合は出来事を、すぐにメモする習慣が大切です。文章には、温度があります。見たもの、感じたことをその場で即座にメモし、感動が冷めないうちに綴る意識を持ちましょう。

テーマを決めて深掘りする

テーマを決めたら、単に事実を並べるだけでなく、出来事の背景や感情が変化する理由を深掘りしていきましょう。一つの出来事を多面的に見て、多くの人から話を聞くと内容に深みが増して説得力のあるノンフィクション小説になります。

まとめ

ノンフィクション小説とは、過去にあった事実や事件に基づく小説です。空想や作り話ではなく、事実に忠実でなくてはなりません。そのためには、真実を写し出すための丁寧な取材が必要です。緻密な取材で積み上げられた魅力的な文章には、臨場感や迫力が宿り、ときに読者の心を激しく揺さぶります。そんなノンフィクションの作品の中には世界で翻訳され、記録的ベストセラーにつながった作品も存在するのです。

ノンフィクション作品は、事実を扱うがゆえに、ときにシリアス内容になることも。しかし、実話だからこそ人を惹きつけ、心を動かす力があります。事件や戦争などの過ちを二度と引き起こさないためにも痛ましい記憶や記録を残すことがノンフィクションの意義だともいえるでしょう。

ノンフィクション小説を書くためには、日頃から自分の体験や見聞きした内容をメモする習慣が大切です。著者が語るのではなく、事実それ自体に語らせる──ぜひこの心がけをもって執筆に励んでみてください。

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