執筆お役立ちコラム

一冊の本ができるまで、出版の種類別流れと関わる専門家の仕事とは

一冊の本ができるまで、どれほど多くの人が関わっているのか考えたことはありますか。

書店に行けば、既に完成された本が並び、なかなかその背景に思いを馳せる機会はありません。

そこでこのコラムでは、本づくりの工程や、そこに関わる専門家の仕事について解説します。

作家が執筆した原稿が、専門家の手から手へ受け継がれることで書籍として世に出る──こうした道のりを知れば書店で手にとる一冊への思いも特別なものになるはずです。

「一冊の本ができるまで」まずは出版の種類を知ろう

一冊の本ができるまでの工程は、出版の種類によって違います。ここではまず、出版の種類と、そのメリットを探ります。

➀商業出版とは

書店で目にする本の多くは商業出版です。

商業出版では、出版社(企業)側が企画をもとに出版する作品を選択し作家へと依頼する流れが大多数で、費用は出版社側が負担して本の製造、販売、販促を行います。

費用負担の面では作家にとってメリットがありますが、その分、印税の相場が低いことや企画や内容への自由度には制限があります。

➁自費出版とは

自費出版は、その名の通り作家自ら出版に関わる費用を負担します。

また、著者は本を出す出版社の選定から始まり、編集、装丁デザイン、印刷、販売の業者を自身で手配する必要があります。出版費用の負担や手間がかかりますが、作品に対して著者の意向を存分に反映できるメリットがあります。また、印税相場も商業出版より高いと言われています。

③共同出版とは

共同出版は複数の作家が一つの本に原稿を書くパターンや、いくつかの出版社がリソースを共有して一つの本を作るなど、目的に応じて著者や出版社が協力して作業を行う出版方法です。

出版に携わる作家や出版社が複数協力することにより、書籍の質や販売数を伸ばす効果があります。

【参考】電子出版とは

電子出版は、書籍をデジタル形式で出版する方法です。

上に解説した三つの出版方法と比べて印刷や販売コストが低いため、書籍の価格を抑えることができます。

スマートフォンやタブレットの普及に伴った電子書籍への需要は年々増加しており、加えて手軽に書籍を出版出来るとあって、個人で電子書籍の出版をする人も増えています。

種類別一冊の本ができるまでの流れと特徴

➀商業出版の本ができるまでの特徴

商業出版は、出版社側から作家への書籍化依頼や、作家自ら企画書を出版社へ提出して始まります。

書籍化に向けて、まずは企画会議で詳しい本の内容や構成を練っていき、方向性が決まればいよいよ執筆のスタートです。商業出版の特徴として、本が売れることに大きな目的を置くため、出版社側の売れる本を出す意図が本の内容に大きく影響することがあります。

また、出版社と著者の間で印税や権利の範囲を取り決める契約を交わしますが、前の章で触れたように印税の相場は自費出版と比べて低いことが多いようです。

その後の編集、デザイン、校正、印刷などの工程は他の出版とあまり変わりませんが、商業出版の強みは書籍完成後のプロモーションにあります。本を売る為のマーケティング戦略を用いて多くの読者に本を届ける施策がなされるのが商業出版の特徴です。

➁自費出版の本ができるまでの特徴

自費出版は著者が原稿を書くことから始まります。

書籍化に向けて構成を練っていく必要はありますが、商業出版と比べ「売れる本を作る」ことが大きな目的ではないため、企画書を作って売り込む必要はありません。原稿が完成したら、書籍化を依頼する出版社を探し見積を申し込みます。

この時、出版社を選定するうえで注意すべき点は下記通りです。

・法外な料金を請求されていないか(適正価格か)

・編集、校正、制作まで著者をサポートしてくれる体制があるか

・書店販売を検討の場合、書店流通可能な出版社か確認する

のちに「こんなハズではなかった」とならないように、事前に自分の書籍化への思いを具体化してから選定することが重要です。

その後の編集、校正、製本までの流れは➀商業出版と、ほとんど変わりませんが書籍を売るプロモーションについては自ら工夫する必要があります。

Amazonでの販売やSNSで発信するなど、個人が多くの人に発信できるツールを利用して書籍が売れる仕組み作りに取り組みましょう。

③共同出版の本ができるまでの特徴

共同出版でも、本ができるまでの流れは➀➁の場合とほぼ変わりません。

ただし、商業出版や自費出版と比べ契約時に出版費用負担の割合や印税の分配率をしっかりと確認する必要があります。

④電子書籍の本ができるまで

電子書籍出版の流れは、上の三つと大きく異なります。

書籍が紙媒体ではないので、原稿をデジタルソフトで用意すれば、印刷、製本の必要はなくパソコン操作で本が完成します。流れとしては原稿を作成したら、自分に合った電子書籍サービスを選び、あとはアップロードするだけです。

出版費用もほとんどかからず、本の値段も自分で決められる自由度やロイヤルティーの高さから近年人気となっています。

本ができるまで関わる専門家とその仕事

作家・執筆家

書籍出版において、作家は「本の中身を作る人」です。

一口に作家・執筆家と言っても、小説家や絵本作家・エッセイスト・WEBライター・コピーライターなど扱う分野によって仕事内容が変わります。

小説家について言えば、個人の経験やアイディアをもとにストーリーの流れとなるプロットを作成していきます。そのプロットの緻密な計画に基づいて物語を完成させていくのです。

編集者

原稿に最初に目を通す、言わば「最初の読者」が編集者です。

編集者は、作家の意見・要望をヒアリングしながら、どのような本をどんな読者に届けたいか具体化します。例えば、作家からヒアリングした内容を整理したり、書籍の企画検討、出版部数の打ち合わせなどを、より良い書籍づくりのための戦略に落とし込んでいくのです。

また、それに加えて筆が止まってしまった著者の方には、執筆についてのアドバイスもおこないます。この時、どうしても執筆が難しいという場合には、ライターを起用することも一つの選択です。この場合は、電話や対面で35回程度の取材をおこない、それを元に企画内容も踏まえてライターが原稿を作ります。

ライターを採用する場合は、作家の執筆ではないからこそ、意向に反していないかのチェックを入念に行うことが大切です。

ブックデザイナー

「本の顔」である装丁デザインは、ブックデザイナーがおこないます。表紙・カバー・帯・見返しなど、書籍の外装に関わるこの仕事は、魅力的な本をつくるうえで非常に重要です。

装丁デザインの目的は、あくまでも作品のイメージや内容を伝えること。

そのため、ただ目立てばいいわけではなく、本文に合った色・フォント・レイアウトを選ぶ必要があります。したがってブックデザイナーには、書籍の読解力も求められるのです。

また、表紙に写真を入れたいときには、やはりプロのカメラマンに任せるのが理想です。

経験豊富なカメラマンは、作家の魅力を引き出し、書籍にこれ以上ないほど相応しい写真を撮影してくれます。

書店では、ほとんどの書籍が中身まで読まれることはありません。

ブックデザイナーやカメラマンの手で、見た目にも鮮やかな書籍にすることで、手に取ってもらえる機会が増えるのです。

校正者、校閲者

校正と校閲は、本文の内容チェックに携わるプロフェッショナルです。

校正が元原稿と印刷物を照合することで間違いを見つけるのに対して、校閲は、事実関係や社会通念上の問題がないかの、調査をおこないます。

ごく簡単に言ってしまえば、校正者は原稿の「中」を見て間違いを確認し、校閲者は原稿の「外」を見て間違いを確認するといえます。それぞれが自らの役割を発揮することで、事実に対し正確で、著者の意向を忠実に反映した書籍が完成するのです。

(※校正・校閲の詳細につきましては、弊社コラム「似ているようで全く違う! 校閲・校正それぞれの役割と重要性」をご一読ください。)

印刷、製本会社

ここまでの工程で原稿が完成し、書籍のデザインも確定しました。

書籍づくりに必要な材料が揃ったので、実際に形に仕上げていきます。

組版の作成と面付け

原稿を書くときにwordやその他のエディタアプリを使うことも多いですが、当然そのままのレイアウトでは書籍にできません。そこでまず「組版」と呼ばれる作業で図版や文字を読みやすく配置し、実際の書籍ページの形に仕上げていきます。

印刷時には1枚の紙に複数のページを配置し、それを折って重ねて製本する「面付け」という手法を用います。

刷版の作成

面付けされたデータが完成したら、印刷機に直接取りつける刷版というアルミ板をつくっていきます。色校正や白焼き校正を経て進められるこの工程では、色バランスの崩れや刷り位置の間違いを細かくチェックすることが必要です。

印刷・製本

できあがった刷版を印刷機に取りつけ、ようやく印刷へと進みます。

ここで完成した「刷本」と呼ばれる印刷物を折って閉じ合わせ、最後に表紙をつけて製本されます。膨大な作業を要する印刷・製本では当然、各工程に高い専門技術を持った担当者が携っているのです。

販売(流通)関係者

本が完成したら、販売者の手に届くまでの流通に関わる専門家の出番です。ここでは出版取次と書店員の仕事を解説します。

出版取次

出版取次は、書籍の仕入れや在庫管理をすることで出版社と書店の間に立って仲介をする仕事です。あまり知られない仕事ですが、この仕事のおかげで全国の書店に本がスムーズに流通し、出版社の取引を効率良く行うことを可能にしています。

書店員

書店員は、本屋の棚を整理して新刊のディスプレイを作成します。この時の商品ポップ(売り場に設置されている広告や展示物のこと)が本の売れ行きにも繋がります。また、新刊が販売される際には読書会やサイン会、講演会などのイベントを企画するのも書店員の仕事です。

1冊の本ができるまでの期間

企画・構成期間(出版準備作業)

まずは、書籍出版にあたる前段階として企画や構成を練っていきます。この作業にかかる期間は、およそ2週間~1ヶ月程です。

始めに企画・構成を戦略的に行えば、次の工程である記事執筆中に内容のブレを防ぐことができます。また、マーケット調査やトレンドを確認しておけば後の流通(販売)で有利に働くでしょう。

記事執筆・編集期間

企画・構成が終わったら、次はいよいよ執筆です。執筆にかかる期間は書籍一冊の長さにもよりますが一般的に3ヶ月程と言われています。

企画の後、作家自ら執筆する場合もあれば、ライターに執筆を依頼することもあり、その場合には構成をもとにした取材が必要です。それにより多少記事執筆の期間は前後します。

また、作家やライターの執筆作業と平行して編集作業も行われます。

書籍制作期間(デザイン・校正など)

原稿で本の中身が完成したら、書籍の制作工程です。校正作業では各ページのレイアウトの確認や、タイトルの決定や本の装丁をするなど、書籍の顔となる作業を行います。制作全体にかかる期間はおよそ2ヶ月ほどです。

印刷・流通期間

書籍制作まで全ての工程が終わったら最終チェックをした後、校了をむかえます。校了後は印刷会社へ入稿し、印刷・製本された物が見本として完成します。

校了、見本完成、流通までにかかる期間は約1ヶ月ほどです。

1冊の本ができるまでQ&A

1冊の本を作るのに原稿はどれくらい必要?

一般的に、一冊の本を作るのに約10万字が必要と言われています。これを原稿用紙に換算すると250枚になります。ミステリーなどの長編だと1冊で2倍の20万字以上の書籍もあります。

商業出版を目指すには?

商業出版における出版社の目的は「売れる本を作る」ことです。

自分の専門分野や得意な領域で発信を積み重ねることで認知を拡大すれば出版社側から書籍化の依頼がくることもあります。また、既に大きな実績がある方は、自ら企画書を出版社へ提出しアプローチするのも一つの方法です。

本に関わる仕事にはどんな物があるの?

前の「本ができるまで関わる専門家」の章で触れた職業の中でも仕事内容によって細分化されます。

執筆(文章を書く)仕事の例

・WEBライター

・コピーライター

・絵本作家

・小説家

出版社など本制作の仕事例

・編集者

・校正者

・出版社や印刷会社社員

本デザインに関わる仕事例

・イラストレーター

・ブックデザイナー

・エディトリアルデザイナー

※書籍などの印刷物を依頼者の希望に応じて読みやすくレイアウトする仕事

まとめ

最後に、本コラムでご紹介した内容をおさらいしましょう。

・書籍づくりには大きく分けて「編集者」「デザイナー」「校正・校閲」「印刷会社」の四つの専門家が関わっている。

・それぞれが自身の能力を活かすことで、正しい情報を読みやすく伝える、著者の意向を忠実に反映した書籍が完成する。

・「ライター」や「カメラマン」など、より充実した内容にするためにかかわる関係者も含めると、その数はさらに膨大となる。

・書籍が完成するまでの期間は短くて数カ月長いと年単位になるビックプロジェクトである。

本づくりはその一冊一冊が、多くのプロフェッショナルに支えられて成立する一大プロジェクトなのです。

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