──これから小説を書きたい、もしくは書いている人たちへのメッセージをお願いします。
五十嵐:すぐに結果を欲しがらないこと。「今日小説を書いて、明日作家になりたい」なんて無理なんですから。
短編小説を書きたがる人も多いですね。短編50枚なら1カ月で書ける、根拠のない自信が皆さんのなかにある。それで書かれるのでしょうけれど、50枚の短編は絶対に本にはならない。原稿用紙50枚の本、見たことないでしょ。純文学に関しては薄くても本になるかもしれませんが、1カ月で小説を書いて賞をとっても、作家は名乗れません。小説家は長編を書かなければいけない。書くための体力を身につけないといけないんです。仕事をしている方であれば、さぼらずにやり通しても最低1年は必要です。
1日3枚が執筆ノルマ。1年のうち65日は資料読みなどに使うとして、300日書き続ければ900枚の長編になります。それを何度も推敲して、削って削って半分の450枚にする。その450枚が読むに足る小説になるかどうか。そういう作業を自分に強いるようにしないと作家にはなれません。
──でも、いきなり長編を書き始めるというのもハードルが高くないですか?
五十嵐:「ある場面が浮かんでいる」「雰囲気はできているんです」とか、モヤッとした話をしてくる人が多いですよね。そういう場合は、プロットを作ることを真剣にやったほうがいいんじゃないかとアドバイスしています。僕の最近の例ですと、もうすぐ始める連載のために、原稿用紙換算で約200枚分のプロットを書きました。僕のプロットは長いんです。ある出版社の販売部員が「これ、このまま文章にして順番に並べたら私でも小説が書けそうです」と話していました。それくらい具体的に書いてみるといいと思います。
やり方ひとつで才能がなくても作家になれる。この僕が実証しています。プロットを作ることと、余裕を持ったスケジュールを組むこと。この二つが、遠回りなようで、一番の近道かもしれません。
それから、どうやって取材したらよいかとよく聞かれるのですが、そもそも取材が必要なことを初めのうちは題材に選んではいけません。作家になる方は、最初は100パーセント兼業作家でしょう。取材する時間はないでしょうし、取材ほど難しいものはないんです。ですから、取材をしないでいいテーマ、方法を考えるべき。だからこそ自分の身の回りを観察することが重要になってくるんです。自信を持っているジャンルがあったとしても、もっと上手な人はほかに必ずいると思ったほうがいい。ただ、あなたの身の回りのことは、あなたが一番よく知っているはずなんです。
Interviewer=今井良
Photographer=片山貴博
1961年東京都生まれ。成蹊大学文学部卒。2001年『リカ』で第2回ホラーサスペンス大賞を受賞してデビュー。以降、ミステリーや警察小説、青春小説、時代小説など次々と発表し好評を博する。07年『シャーロック・ホームズと賢者の石』で第30回日本シャーロック・ホームズ大賞を受賞。『リカ』はシリーズ化され、累計55万部のヒットとなる。