Presented by 幻冬舎ルネッサンス

特別連載インタビュー

破っちゃダメな締め切りをどんな手段であっても作る!

──自分にとって当たり前の、ありふれたものの中にテーマを発見し、研究して突き詰める。難しいことですが、やり甲斐もありそうです。

 山内:やり甲斐、ありますね。作家さんによっていろんなアプローチの仕方があると思うけど、私は書きたいテーマを突き詰めて、取材したり研究みたいなことをしている時間も好きなので、やっぱり性に合ってるなと思います。ライターの仕事も経験したし、雑誌のエッセイや新聞コラム、映画レビューも書評もなんでも書くけど、やっぱり物語に落とし込みたいという気持ちがいちばん強いです。ただ、小説を書くのって、死ぬほど疲れる(笑)。ほかの文筆とは比較にならないくらい消耗します。それだけに、小説を書きあげたときの、マラソンを走り切ったみたいな達成感、自分を使い果たせている感じは最高ですね。

──想像力の全力を尽くすというか、自分というものを隅々まで使いたい、みたいな感じなんですかね?

 山内:書いていると稀に、自分が思いもしなかった次元にいけることがあって、そういう快感を味わうと、また書きたいと思えますね、疲れるけど(笑)。アスリートが記録出すときの感じに似てるのかなぁ。創作していると、本当にたまに、エクストリームな瞬間があるんです。あと、締め切りに追われて、ギリギリのところで集中して、追い詰められながら書いているときの方が、いいものが書けたりします。そういう意味では、締め切りが人をもっともクリエイティブにするのかも。

──では、小説が書きたい、書いているけれども書ききれない、という人にアドバイスをしていただくとしたら……。

 山内:破っちゃダメな締め切りを、どんな手段であっても作る! 自分に対する締め切りでもいいし、私みたいに友人に対して約束するのでもいい。今ならツイッターとかで宣言して、自分を追い込むのも一つの手段ですよね。それでもし締め切りより早く書き上がっても、すぐに完成と思わず、ギリギリまで粘って推敲するとさらにいい。私は、最初から小説を書くことを仕事にしたいと思ってしまったので、締め切りに追われることは宿命ですが、趣味で書きたい人は、また違う楽しみ方があるのかも。そういうのにも憧れるけど。

──そして「書き続ける」ということを考えた時に、テーマは作品ごとに変えなくても、同じテーマであっても作品ごとに深めていけばいい、と。

 山内:私も、同じテーマを同じアプローチで書くことはなくて、作品ごとに進化するようにはしています。自己模倣にならないように、意識的に避けてもいて。ただ、デビュー作でたどり着いたテーマは一生のものだから。画家も、同じモチーフを描き続けますよね。モネは庭をずっと描いていたけど、いろんな季節のいろんな時間の庭を描くことで、バリエーションを出して、深めていた。同じモチーフであれテーマであれ、それに対してどうアプローチをしていくかで、全く違う作品ができあがる。自分にとって大事なテーマであればなおさら、1作書いただけでは終わらずに、何作も通底したテーマとして書いていくことになると思います。

Interviewer=吉田大助
Photographer=三原久明

著者プロフィール

山内マリコやまうちまりこ

1980年生まれ。富山県出身。大阪芸術大学芸術学部映像学科卒業。2008年に短編「16歳はセックスの齢」で第7回「R-18文学賞」読者賞を受賞。2012年、同作を含む短編集『ここは退屈迎えに来て』で鮮烈デビュー、各界から称賛を浴びた。その他の著作に『アズミ・ハルコは行方不明』『さみしくなったら名前を呼んで』『パリ行ったことないの』『かわいい結婚』『東京23話』『あのこは貴族』『メガネと放蕩娘』『選んだ孤独はよい孤独』などがある。 最新刊は『あたしたちよくやってる』。

特別連載インタビュー