この、『季節はめぐり、そして春は来る』という物語は、冴えない浪人生の、変化のない平凡な日常を、なるべく快活に、健やかに描くように心掛けました。主人公とヒロインは、できる限り魅力的な人物として描きました。十七、八歳の若者の、切実で、デリケートな心、受験生としての孤独と、焦燥感、惑い、そんな思春期ならではの若者の心に、少しでも共感してもらえればな、と思います。後半は、小説らしく主人公を少し追い込んで、受験後は、大学生活への明るい希望と、和やかで、優しいエンディングにしました。僕が思う小説の役割は、人生の意味と解釈することよりも、日々のありふれた日常の出来事から、純文学らしく心に感銘を与える事柄を選び出して、それを言葉にして表すことで、当たり前の日常を、読者に再認識してもらうことだと思っています。感受性が鋭いがゆえに、大変なことも多いけれど、小さな事に感動する、若い時の貴重な時間を共有して喜び、人を大切に思う…そんな思春期の心を、この本を読んでくれた読者の方が思い出してくれれば、僕としては嬉しい限りです。