表現者の肖像 斉藤正幸
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翻訳者インタビュー

『タタールで一番辛い料理』が刊行されました。
 今のお気持ちはいかがでしょうか。

初めての翻訳で、しかも長編小説ということで苦労も多かったですが、書店に並ぶ前に担当の編集者から実物を手渡された時は、これで自分も文壇の仲間入りができたと素直に感慨に浸りたくなりました。しかし編集者の前なのでそれが顔に出ないようにじっと堪えました。電子ファイルで見た時よりも表紙のデザインの見栄えがして、本の内容をよく表しているようで一目で気に入りました。ドイツの人気女流作家なのに日本に一作も紹介されていないのが不思議でした。題名の通りに刺激的な作品で、それを翻訳できたのは幸運だったとしか言いようがありません。

今回出版しようと思ったきっかけはなんだったのでしょうか?

家の近くの図書館は日本でも指折りの蔵書数を誇る大きな図書館で、外国語図書のコーナーに行くことはほとんどないのに、なぜかその日たまたま通りがかった時にそのタイトルに引き寄せられました。表紙のイラストの女性が読んだ方がいいよと言っているような気がしました。最初は翻訳をしようなどとはまったく思っていませんでした。ここ20年以上年間100冊以上読んでいますが、日本の作家で同じような作風に出会ったことがなく、読み進めるうちに手元に翻訳として残したくなり、翻訳が終わった時にはぜひとも多くの日本人に読んでもらいたいと思いました。出版するからには翻訳としての精度や、原作の雰囲気を損なわない控えめな日本語表現に心掛けたつもりですが、それでよかったのかという不安もあります。そこの辺りが読者にどう評価されるのかも知りたいと思いました。どう評価されるのかという緊張感が間違った翻訳をできないというスリルであり、責任感でもあり、醍醐味だということを知りました。

どんな方に読んでほしいですか?

悩みを抱えている人にも、悩みを知らない人にも読んでもらいたい本です。安倍内閣の政策の目玉である女性が活躍する社会にぴったりの本かもしれません。降りかかった苦難を乗り越えるのは容易なことではありません。時には明るく、時には深く落ち込み、そして時には非情に、日々状況は変化しても目標を失わず、出会った男たちを手玉に取るがごとくしたたかに生き抜く、物語の中だからとはいえ、主人公は波乱万丈な人生を強いられます。言葉では簡単ですがそんなことができる人はほとんどいないと思います。そのエピソードの一つ一つが面白おかしくそして切なく描かれていて、今何かで悩んでいる人に元気を与えてくれるかもしれません。身近にいる女性もみんな、どこかにこの主人公のようなしたたかな一面を持っているに違いないと思わせます。男女を問わず、人生は甘くはないが捨てたものではないとあらためて気付かせてくれる話です。

幻冬舎ルネッサンス

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