表現者の肖像 山田博愛
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七宗町との出会い

医師として10年の経験を積んだ後、無医地区であったこの地で自立していくことを決意しました。ここには私の他に医師はおらず、慣れ親しんだ友人はもちろん、同じ志を持って医療人となった同僚もいません。都会から離れた土地で暮らし、開業医として経営にも携わりながら、人の生き死にに関わる仕事をたった一人でしていくことの責任は大変なものだと感じました。 さらに、クリニックの経営を考えるにあたって、私個人のことだけではなく、地域全体のことを考え、自ら行動に移していかなくてはいけないのです。都会の開業医のような競合とのせめぎあいは私には無縁でしたが、若い人が去り、崩壊していく地方での経営は小手先で何かが変わることはなく、じっと待っていれば誰かが……などということも当然ありません。物理的環境としても人的環境としても緊張感があり、厳しい環境であることは間違いありません。

しかし、都会では決して見ることのできない満天の星や、幻想的な蛍の光、季節ごとに違った顔を見せてくれる山々は、私に自然とともに生きる大切さを教えてくれ、地域の皆さんとあぁでもないこうでもないと考えを巡らせ企画したお祭りに喜ぶ人たちの顔を見ると、言葉にできない幸福感を味わうことができます。今や地方復興に携わっていくことは私の生きがい、というよりもこの地で生きていく上での必須事項となっています。様々な疾患で来院される患者さん全てに対応するためには一刻も無駄にしない勤勉さが、何をするにも便利ではない地で暮らすためには農作物ですら自分でつくる生活力が、そして衰退する地方を復興するには地域の皆さんとの協力が必要不可欠なのです。

地方には「何もない」のかもしれない。不便かもしれない。しかし、「何もない」からこそ、地域の皆さんと協力して築いていかなければいけない。

幻冬舎ルネッサンス

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