2010年に「このミステリーがすごい!」大賞隠し玉として『死亡フラグが立ちました!』でデビューした七尾与史さん。現在も歯科医の傍ら執筆を続けており、「ドS刑事」「バリ3探偵 圏内ちゃん」など、個性的なキャラクターが活躍する人気シリーズを多数刊行している。歯科医との兼業作家として、どのように創作活動と向き合っているのかを伺った。
2010年に「このミステリーがすごい!」大賞隠し玉として『死亡フラグが立ちました!』でデビューした七尾与史さん。現在も歯科医の傍ら執筆を続けており、「ドS刑事」「バリ3探偵 圏内ちゃん」など、個性的なキャラクターが活躍する人気シリーズを多数刊行している。歯科医との兼業作家として、どのように創作活動と向き合っているのかを伺った。
──作家になろう、と思い始めたのはいつごろですか。
七尾:結構遅くて、30歳を過ぎてからなんです。本をあまり読むタイプでもなかったですし。ただ映画は好きでよく観ていました。そのうち映画に関わる仕事に携わりたいと思い始めたんですが、歯医者だったものですから、現実的ではなくて。じゃあ、ほかに映画に関われることはないかと考え、原作小説を思いついたんです。それで物は試しと、原稿用紙10枚程度の怪奇文学の賞に応募しました。そうしたら最優秀賞と賞金を20万円もいただきまして。自分には才能があるんだと気分が大きくなって、次に600枚くらいの作品を書きました。そうしたらその作品が以前ありました「ホラー・サスペンス大賞」の最終候補に残ったんです。けれどもそれは、長編処女作だったこともあってか、小説の基礎がなっていないと受賞はならなかったのですが、そのときに「最終選考に残るということは絶対作家になれますから、諦めずに書き続けてください」と励ましていただいたんです。それを愚直に信じて10年。2009年に第8回『このミステリーがすごい!』大賞の最終選考に残ることができました。今回こそは、と意気込んだのですが、残念ながらライバルが強力でして。ただ編集の方に、この作品は出せば売れるだろう、と思っていただいたようで、『このミステリーがすごい!』大賞隠し玉として2010年7月に『死亡フラグが立ちました!』(宝島社文庫)という本を出させていただきました。
──デビュー前は、どのくらいの頻度で投稿されていたんですか。
七尾:時期によりますね。一番出した時で長編を年間2〜3本くらい。歯医者が終わってから夜12時くらいまでと、休日などの自由な時間は全て執筆と映画を観ることに費やしていました。ただもちろん、歯医者の仕事はきちんとしていましたよ。たとえば歯を削りながら犯人を考えるといったようなことはありませんでしたし、親知らずを抜く時は100%親知らずを抜くことに全てのエネルギーを使っていました(笑)。
──物語の発想はどこから。
七尾:映画ですね。映画館で鑑賞した年が、最多で年に230本を超えたことがありまして、それに加えて作品を書いて映画を観て……とそれしかしていませんでした。ただ、数多く物語に触れてきたので、自分だったらこうするのに、という物語の展開などに対する意見もありました。なので、こんな作品があったら面白いだろうな、こんな展開になったら読者は喜んでくれるかな、ということを映画を観ながら思っていまして、それを小説に反映させている、という感じです。特に「ドS刑事シリーズ」というのは映画からの着想が多い作品ですね。
──どんなジャンルの映画を見ることが多いんですか。
七尾:昔はホラーやサスペンス映画が好きで、そればかりだったんですが、小説を書き始めてから、ドキュメンタリーやヒューマンドラマなど、いろんなジャンルの作品を観るようになりました。今では小説を書くために映画を観ているようなものです。もう資料ですね。小説のネタにならないかとさまざまな映画を観て、新しい作品の着想に役に立てよう、という。何もないところから生み出すのはなかなか難しいので、きっかけやフックになるようなものがないと、小説はなかなか書けるものではないと思うんです。いろんな作家さんがいらっしゃいますが、本人はゼロから書いているつもりでも、無意識のどこかにかつて観た映画や小説、アニメや人から聞いた話などの断片が引っかかっていて、それが着想になっているのではないのかと思います。
──映画がお好きな七尾さんですが、脚本などに挑戦することは。
七尾:依頼があればやってみたいな、と思います。脚本と小説は似て非なるもので、脚本は全てセリフ。つまり、情景描写とか心情表現が一切効かないので、ごまかしがきかない。小説は、そのセリフをどんな気持ちで言っているか、とか、内心は嘘をついている、といったことが書けますが、脚本はそれができません。小説家というのは個人プレーで、編集者さんがフォローしてはくれますが、結局のところは物語を書いて完結させるまでは、全て自分なんです。映画はチームプレーなので、脚本家だけでなく監督さんがいたり演出さんがいたり役者さんがいたりと、小説とは世界が違うのかなと思います。ただまあ、やってみたいな、というのはありますけどね。
──ご覧になられた映画の感想を書きとめたりは。
七尾:今はYouTubeで映画レビューなどをしているんですけれども、かつてはブログをやっていました。観た映画のレビューを書いた上で、自分だったらこうする、ここが伏線だ、このどんでん返しはよかった、といった物語分析みたいなものですね。ブログやYou Tubeのいいところは、人に見せるものなので、結構きちんとやるようになることです。自分のための忘備録だと「観ました」「おもしろかった」だけで終わってしまうんですが、人に説明するとなると、きちんと分析して構成も考えなければなりませんから。