表現者の肖像 柴田和夫
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書籍に込めた思い

務省の専門職として在外語学研修を開始した直後、カンボディア難民の子供が危篤状態ということで、同じ下宿に間借りしていたスイス人でUNHCR(国連高等難民弁務官)事務所に務めていた青年マリオに誘われて、バンコク市内のルンピニ公園内に仮設されたキャンプ内にその子供を探しに行ったことがありました。

その小さな子は、国境を裸足で越えて来たと思われるほど足は傷だらけ、また、肩でせわしなく息をし、いつ死んでもおかしくないような状態でした。
その子供のお父さんとマリオの後に付いて、バンコク市内の病院を回りましたが、多くの病院で入院を拒否され、最終的には、キリスト教会系の病院に引き取ってもらいました。
翌日、マリオからその子が死亡したというニュースを聞きました。
その時は、マリオの傍にいるだけで何にも手伝うことができない自分の無力さと、国際政治の非情さをいやというほど味わった事件でした。

その後、大使館の仕事の関連で、タイ・カンボディア国境のカンボディア避難民収容所には何回となく脚を延ばすことがありましたが、
当時の東南アジアの状況は、ベトナムがカンボディアに介入し泥沼化の様相を示していました。
その後、冷戦構造が崩壊し、ソ連邦の解体に伴い、カンボディアにも和平が訪れ、インドシナ地域には自由に行き来できるようになりました。

タイのチュラロンコーン大学にてインドシナ情勢を勉強していた当時、
べトナム難民の子であった学生ウィラットとの邂逅、ウィラットの故郷への旅、ホーチミンが、その昔東北タイにて教宣活動を行っていた際に植えたスター・フルーツの木、インドシナ地域に点在するタイ族の村への訪問、インドシナ地域で味わった焼酎、バンコクの中華街ヤワラート、マンゴーの話、タイの水、タイの微笑、そしてタイの華僑の故郷潮州への訪問等、インドシナ地域にはそれなりの歴史、文化があり、なかなか興味深いところであることを多くの読者に知っていただきたいという思いが強く、
また、バリもインドシナ同様文化的にも大変興味深いところでありますので、インドシナの魅力と併せてバリの魅力なりをこの本から感じとっていただければ有難いと思います。

幻冬舎ルネッサンス

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