表現者の肖像 柴田和夫
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座右の一冊



私にとり、一冊の本のみを選択として座右の書とすることは、極めて困難なことです。
これまでの私の人生を振り返ってみますと、幼稚園或いは小学校の低学年に父親に読んでもらった『世界児童文学全集』は、当時の私が最も感激したものであり、全集に入っていた、『ああ無常』や『ピノキオ』にはその内容に胸を躍らせたものでした。

自分自身で本を読むようになってからは、小学校時代は漫画に、中学時代は白戸三平の『忍者武芸長』、高校時代は武者小路実篤や石坂洋二郎の本に感化されてきましたが、その後、大学生、社会人になってから、そしてある程度年をとってからと、その時代・時代により私の座右の一冊は変化して来ていますので、私のこれまでの人生を通じて、これが座右の一冊と言い切ることはなかなか困難なようです。

そのような状況下、敢えて、現時点で私が考える過ぎ越しそれぞれの時代における座右の書を挙げてみると概要次のようになるものと思われます。

大学生時代、国際法のゼミ仲間で何かにつけて師と仰いでいた私より年上の学友が読書を勧めてくれた立原正秋の小説をかなり読み込んだことがあり、学生時代は、ある意味でかなりストイックな立原の生き方にかなり影響を受けたと感じています。

外務省の語学研修生としてタイ国にてタイ語を研修していた時代は、中公新書の『私の外国語』に掲載された外務省のタイ語の先輩である石井米雄先生のタイ語履修の経験談の文章がタイ語の上達がいつまで経っても捗らない私に勇気を与えてくれました。

語学研修後在タイ日本大使館に務めとなり、インドシナ地域の外交をカバーしておりましたが、当時の在ベトナム大使であった谷田部厚彦さんの書いた『ある大使の生活と意見』からは外交官としての生き方に大変感銘を受けました。

在外勤務後、本省勤務となってからは、仕事が超多忙であったこと及び私生活も極めて不規則であったため、ストレスから十二指腸潰瘍を罹患してしまい、役所内にて貧血で倒れ、救急車で病院に担ぎ込まれました。
入院中、病院の天井を見ながら、これではいかんと深く反省し、自らの精神を鍛えるべく仏教関連の本を多く読む機会を得ましたが、松原泰道さんの仏教に関する本からは一種の救いを感じたほどでした。

最近では、詩人であり哲学者の若松英輔さんの著書を買い集め読みまくっており、人生の後半において、素晴らしい作家に出会うことが出来たと、その稀有な出会いに感謝している次第です。

幻冬舎ルネッサンス

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