エントリーナンバー1四十円
p2著者名:中條 てい
外で突然、ダダダダっという騒音が轟いた。さっきから人の話し声もぼそぼそ聞こえていたけれど、耳をつんざくような音にたまりかね、俺は浴室のルーパー窓の隙間から外を窺った。すると狭い道のすぐ傍で作業員が電動の機具を使って舗装を切っていた。
その夜、女房からスカイプで連絡があった。スペインの何とかコンポステラとかいうところまで巡礼の旅に向かう途中で、今はまだフランスのどこそこにいるとのことだが、聞き慣れないフランス語の地名を言われてもとんとわからなかった。巡礼ならそもそも四国へ行きゃいいだろうが、と俺なら思う。
「今日、道路工事してたよ。うるさいったらなかった」
「ああ、路地の下水管の取り替えよ」
「え? そんなの聞いてたか」
「聞いてるわよ。先週も道にチョーク引きに来てたじゃない」
「おまえが出かける前に? 」
「そうよ」
テレビ電話が未来の夢だった時代はとうに過ぎて、フランスと日本に離れている夫婦の会話も今はこんなものだ。
ただ、布団に入ってから、そうか、だったらあの四十円は近所の子どもじゃなく、やってきた作業員が置いたのかもしれないな、と閃いた。
もしも作業員が置いたのなら、俺が気にかかっていた四十円という半端な金額に説明がつく気がする。だいたい五十円でも百円硬貨でもなく、わざわざ十円玉が四枚というのはいかにも釣り銭のようじゃないか。それなら、たとえば測量にきた人が通りの自動販売機で飲料を買い、うちの玄関先でキャップをひねる、そのときに手に握った釣り銭をステップにひょいと乗せた……あるある、その可能性はある、とそんなことを考えながら俺はいつの間にか寝入っていた。