エントリーナンバー1四十円
p3著者名:中條 てい
次の朝、外に出ると四十円はまだ同じ場所にあった。自分でもほとほと暇な奴だと呆れたが、俺は昨晩の仮説をどうしても確かめたくて路地を出た。目と鼻の先、通りを向こうに渡ったところにずらりと自動販売機が並んでいる。
百二十円、百三十円という小型に混じって……あった! 中ボトルのお茶が百六十円だ。百円硬貨を二枚入れてこれを買えば十円玉四枚の釣りが落ちる。
――絶対これだ。
妙に突き止めた気分になったが、物好きついでに他のケースも考えてみた。
仲間の分と併せて百三十円のを二本、あるいは百二十円のを三本、もしくはいろんな組み合わせで複数本買ったとしよう。ここのは一本買うごとに釣りが落ちることを踏まえても、最後に四十円が手元に残る方法はいくらでもある。しかし、財布から一枚、二枚と硬貨を投入して買ったのなら、釣りはその場で財布に戻すのが自然じゃないか。
測量なら少なくとも二人組だろう。上役の方が三百円渡して買いにいかせる。下っ端が百三十円の缶コーヒーを二つ買って釣りが四十円。俺の家の前まで戻りコーヒーを手渡し、「お釣りです」と四十円をステップに置いたとしよう。六段あるうちの上から二段目、ちょうどその辺りが置くには絶妙の高さだったにちがいない。もらった方は「ほい」とでも返事をして缶コーヒーを開けるが、その場で飲み干したとは限らない。仕事中のちょっとした休憩なら缶を持ったまま引いた線の確認をしていたかもしれない。そして移動し、四十円がうっかり忘れられた。
――おお、そっちの方がもっともらしい!
俺はちょっとばかり名探偵を気取って悦に入った。
午後になり、仕上がったイラストを取りに担当者がやって来た。少しいやらしいかもしれないが、別に彼でなくとも来訪者がステップのあれを見つけたかどうかが気になって、見送るふりをして外に出た。四十円はちゃんとそこにあった。下りるとき、彼の目にとまれば自慢たらたら名推理を聞かせてみたかったけれど、振り返りへこへこ頭を下げる彼はそんなものに目もくれず帰っていった。。