WEB小説コンテスト「イチオシ!」

エントリーナンバー3 カップの底に見えたものベリーダンサー・カメリアの物語

p10

著者名:富澤 規子

 カメリアは千倉の浜に今も残るもう使われていない海女小屋に私を案内してくれた。

 千倉で海女をする母親のような女性になりたかったと、彼女は言った。

 幼い英子を包みこむ優しい母のような生き方はかなわなかった。愛してやまなかったアラブ歌謡と踊りのために、カメリアがあがなったものとはなんだったのだろうか。

 その思いがカメリアの手を女性達へ差し伸ばさせるのだろう。英子をパーティに誘ったアラブ人達や占い師の老婆のように、迷う者達にカメリアは「こっちにおいで」と呼びかける。

 女性達はベリーダンスを求める。見失っていた自分の自然をトランスレーションのなかで取り戻そうとする。そして踊り一つでいくつもの海を渡ったカメリアの姿に勇気を鼓舞される。

 嬉しい時は嬉しいと、悲しい時は悲しいと心と体が自然に叫ぶように。アラブの音にのせて体をゆすりトランスレーションに癒されるために。

 カメリアは女性達に呼びかける。

「こっちにおいで」と。

 あなたのカップの底には、いったい何が見えているの、と。