エントリーナンバー3 カップの底に見えたものベリーダンサー・カメリアの物語
p9著者名:富澤 規子
カメリアはショーダンサーを続けるかたわら、80年代後半にパリでベリーダンス教室を始めた。欧米でベリーダンスが一般に認知されるのはもう少し後だから、見通しの立たない赤字経営覚悟のスタートだった。
ベリーダンスを習う理由は人それぞれ、痩身美容や、健康のため、エキゾチックなコスチュームへの好奇心もあるだろう。
パリでカメリアにレッスンを求める女性達は共通点があるという。
彼女達は解放されたいのだ。
心のままに腰を揺らし、腹を震わせ、内にこもった感情を解き放したい。
女性とはこうあるべき、と言う檻から逃れたい。ベリーダンスの幻想的な衣装に身を包み、アラブの音にのせて思いのままに動き、トランスレーションの中に身を沈めたい。教室に通う女性達はベリーダンスを踊るうちすっきりした顔つきに表情が和らいでいくと、カメリアは語る。
彼女達を見守るカメリアは、アラブ人と渡り合う芸能者とはまた別の一面を見せる。王様のお気に入りであったのは、彼女にとっても遠い昔の物語だ。
今のカメリアは迷える女性を救おうと手を差し伸べる者の優しい顔をしている。化粧すらしない笑い皺の多い素顔で生徒達を迎えいれる。
かつて英子がそうであったように、いくつも仮面をかぶって、その外し方がわからない女性を見過ごすことができない。教室経営は生徒がつくまで十年かかる、それまでは赤字だと忠告されたが、一人でも生徒が訪ねてくるのならばとやめることができなかった。
そうして救われる女性達を見て、またカメリア自身も救われるのだろう。
アラブ女性達はアラブ歌謡や民謡の調べにのせて気のおもむくままに体を揺すり舌笛を鳴らした。嬉しい時は嬉しいと、悲しい時は悲しいと訴えるために。
パリの女性達は知ってか知らずか、心を解放するために、アラブの女性達を模倣する。